自然実験、差の差推定、サンプル・セレクションバイアスといった概念や手法を知らないと、最近の実証研究を理解することはできない。ところが、学部レベルの教科書でこうした手法の意味を丁寧に解説したものが見当たらなかった。大森義明氏の『労働経済学』は、実証研究では普通に用いられるようになった手法の考え方を丁寧に解説しながら労働経済学を紹介している教科書だ。実証分析を志す学部生はもちろん、計量経済学や実証分析の最先端の論文を読み進めるまえに大学院生が読んでおくべき本だ。労働経済学というテーマにかかわらず、現代的な実証分析に共通の考え方を学べる。労働経済学というよりも「実証分析の作法」という感じの本だ。