情報源は決して明かさない。取材活動の原則であり、生命線でもある。それが崩れた。 奈良県の医師宅放火殺人の調書漏洩(ろうえい)事件の裁判だ。秘密漏示罪に問われた精神科医から供述調書を入手したとされ、事件を題材に本を書いたフリージャーナリストが出廷して、取材源がこの医師だったと証言した。 ジャーナリストはこれまで「命を差し出しても言えない」としてきた。それが一転して、有罪を立証する検察側の尋問に答えている。「被告の利益になると思った」と言うが、理解に苦しむ。 情報提供者は、ときには自らの不利益を覚悟しても情報を取材者に託す。その相手を守れないようでは、信頼関係が根底から揺らぐ。まして法廷で取材源を明かすなど、あってはならない。 事件の経緯を重く受け止め、情報源の秘匿の意味を報道に携わる一人一人があらためて、肝に銘じなくてはならない。 近年では、記者が取材源保護のために民事事件の証言を