かつての日本には、「一億総中流」と呼ばれた社会がありました。経営者と労働者の所得格差は小さく、「福祉国家」をめざす政策によって貧富の差は是正されようとしていました。国民皆保険の医療保険制度が整備され、平均寿命も伸びていきました。世論を二分した「安保法制」をめぐる政治手法が際立った安倍内閣は、ひるがえって「一億総活躍」というアドバルーンをあげました。 (『「一億総活躍」より「みんなちがって、みんないい」』2015年10月6日「太陽のまちから」) 「一億総活躍」という言葉に実感がともなわないのは、現在の日本社会が格差と不平等が拡大するだけでなく、世代間連鎖を運命づけられているように変質しているからです。製造業への派遣労働への規制が撤廃され、非正規労働がとめどなく広がった結果、リーマンショック後には20代、30代の若者たちが失職しただけでなく、住まいを失う事態が社会問題化しました。こうした不安定