松方冬子『オランダ風説書──「鎖国」日本に語られた「世界」』(中公新書、2010年) 「鎖国」政策をとっていた江戸時代の日本にとって東アジアよりもさらに広い世界情勢をうかがう覗き穴の役割を果たしていたオランダ風説書。1641年以降、200年以上にわたって国際情勢を定期的に報じ続けたメディアという点では世界史的にも珍しいものだろう。 本書ではオランダ風説書が三段階に分けて検討される。「通常の」風説書は、まず長崎の通詞とオランダ商館長とがまとめるべき内容を相談し、下書き、加除修正、清書した上で幕府へと送付された。相談しながら情報を取捨選択していたのでこの際には原本などはなかった。ところが、アヘン戦争など東アジア情勢の激変を受けてバラフィアのオランダ政庁は対日貿易方針を見直し、商館長の裁量には任せず正確な情報を日本側に伝えようと考えた。政庁側で作成された時事ニュース的な書類が長崎に送付され、これ