● はじめに 「無人島へ持っていく一冊の本」といった類の企画は昔からよくあるが、今日のように書物の氾濫する時代でも、座右の書となるといわゆる古典名著が選ばれることが多い。しかし、筆者にとっての「一冊の本」は『イエスという男』(田川建三著、三一書房、1980年、第二版:作品社、2004年)である。これは驚くべき書物だ。ひとりの人間が西洋二千年の歴史と格闘した結果生まれた著作だ。われわれもこれを読むことによって、その格闘の意味を知ることができる。 「イエス」とはもちろん、「キリスト」と呼ばれたナザレのイエスのことだ。「キリスト」は、ヘブライ語で「救い主」を意味する称号であった「メシア」のギリシャ語訳(クリストス)に由来するのだから、「イエス・キリスト」は「救い主であるイエス」という意味。したがって、この男の名前は単に「イエス」と呼ぶのが正しい。 本書の発行後にいくつかの書評が現れたが、それらは