「東京に出てきたとき、どうして『たけやのパン』がないのか不思議に思った。そういった声をよくいただきます」 秋田市に本社を構えるたけや製パンの武藤真人社長はこう語る。同社のパン製品は秋田の人たちにとって幼少のころから慣れ親しんだ日常食で、学校の給食にも登場する。従って、進学や就職などで県外に出ていった秋田出身者から、店に置いていないことへの驚きや残念がる意見をもらうことが多いそうだ。 「秋田県人にとって、たけやのパンは全国どこにでもあるものだという感覚のようです」と、武藤社長は少し申し訳なさそうに話す。 そのため、パンを小包に詰めて県外で暮らす子どもに送る家庭も少なくない。「私の知り合いも『バナナボート』などをクール便で送っているという話をしていました」と武藤社長は言う。 全国各地にパンのメーカーはあるが、これほど地域に根ざした企業も珍しいのではないだろうか。たけや製パンはなぜここまで秋田の