年を越した気がしなかった。 個人の貿易商をやっている俺には当然会社の集まりなどという物は存在せず、新年会なんて物が行われるはずもない。 得意先への挨拶廻りは済ませたものの、やはり新年の実感は湧かず仕舞いだった。 街のいたるところに見られる『迎春』の文字にも、俺はマンネリズムを感じてしまっている。 いや、毎年変わらないのは当たり前なんだけど。……年のせいなのだろうか。 五郎「気分を切り替えないとなぁ……。今度、手頃な飲み屋で一人新年会とでも洒落込むか」 ま、飲みはしないけど。 ーーーー 井之頭五郎は、食べる。 それも、よくある街角の定食屋やラーメン屋で、ひたすら食べる。 時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき、彼はつかの間自分勝手になり、「自由」になる。 孤独のグルメ──。それは、誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為だ。 そして、この行為こそが現代人に平等に与えら