今週の本棚：村上陽一郎・評 『ヒトはなぜ自殺するのか 死に向かう心の科学』＝ジェシー・ベリング著、鈴木光太郎・訳 | 毎日新聞

（化学同人・２９７０円） 数ある社会的動物の中、ヒトの「特性」は 日本での自殺者の数は、前世紀の終わりころまでは、ほぼ二万人台に推移してきたが、一九九八年から騰勢に転じ、二〇〇三年にはほぼ三・五万人に達した。社会問題として取り組まれた結果、ここ十年ほどは減少傾向にあり、それでも二万人前後を記録している。文明社会が成熟するに連れて、自分の置かれている社会的文脈に不適応さを感じる人々が増え、その一部が、みずからの命を絶つという行為に走る、と言われている。ウイルス禍のなかで、自殺者が漸増の傾向にあることは、最も今日的な意味で、現代社会の取り組むべき課題でもある。つまり自殺は、先（ま）ずは社会問題として捉えられるのが通例である。 ところで、本書はタイトルが「人間は」でも「人は」でもなく、「ヒトは」で始まることからも判（わか）るように、生物の一種であるヒト、という立場で、自殺という行為を、言わば生物

[taketake89]

“本書はタイトルが「ヒトは」で始まることからも判（わか）るように、生物の一種であるヒト、という立場で、自殺という行為を、言わば生物学的、あるいは動物行動学的に探ってみようという、珍しい試みである”