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夏目漱石 永日小品
雑煮(ぞうに)を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうち... 雑煮(ぞうに)を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうちの一人がフロックを着ている。着なれないせいか、メルトンに対して妙に遠慮する傾(かたむ)きがある。あとのものは皆和服で、かつ不断着(ふだんぎ)のままだからとんと正月らしくない。この連中がフロックを眺めて、やあ――やあと一ツずつ云った。みんな驚いた証拠(しょうこ)である。自分も一番あとで、やあと云った。 フロックは白い手巾(ハンケチ)を出して、用もない顔を拭(ふ)いた。そうして、しきりに屠蘇(とそ)を飲んだ。ほかの連中も大いに膳(ぜん)のものを突(つッ)ついている。ところへ虚子(きょし)が車で来た。これは黒い羽織に黒い紋付(もんつき)を着て、極(きわ)めて旧式にきまっている。あなたは黒紋付を持っていますが、やはり能(のう)をやるからその必要があるんでしょうと聞いたら、虚子が、ええそうですと答えた。そ
2011/02/16 リンク