『双頭の船』 池澤夏樹著 : 書評 : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE（読売新聞）

＜空っぽの場所の至るところに草の種みたいな神話の種が埋まっている＞ 被災地に足を運び続けてきた作家は、そこで拾い集めた種から希望の物語を育てた。物語は苛烈な現実の殻を突き破り、生死の境界を超え、思いもかけぬ明るい世界へと連れて行く。 これは瀬戸内海から三陸まで北上するフェリー、途中で「さくら丸」と名乗り、変貌を重ねる船の航海記だ。自転車の修理を任された海津、熊の臭いに取り憑(つ)かれたドライバーの千鶴、津波から生還した才蔵……何かに背中を押されて、孤立しかけていた人々が沿岸各地から乗り込む。２００人のボランティアに続いて、１００匹の犬を連れた男が現れるあたりから、物語はふっとリアリズムから足を離す。 安部公房の『方舟さくら丸』（１９８４年）は、核戦争の恐怖に駆られた男が地下の採石場跡に妄想した、巨大シェルター内の話だった。しかし、地震と津波と原発事故という、絶望の淵(ふち)までこの国の人々

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池澤夏樹『双頭の船』 ”これは瀬戸内海から三陸まで北上するフェリー、途中で「さくら丸」と名乗り、変貌を重ねる船の航海記…仮設住宅に暮らす２０００人と命を亡くしたはずの家族まで受け入れ、やがて--”