東日本大震災は、長らく平和を享受してきた私たち日本人が、久しぶりに経験した非常事態です。この点に異論のある人はいないでしょう。非常時には、平時には見られない特異な現象が矢継ぎ早に起きます。原子力発電所の外部へ放射能が漏れたことによる退避勧告や、西日本への疎開、デマの流布に買い占め騒動。いずれも、大多数の日本人にとっては歴史の教科書や SF 小説の中でしか見たことのない現象が、本当に目の前で展開されることになりました。 上に挙げたダイナミックな例に比べれば、あるいは目立たないかもしれませんが、しかし日本社会にとって本質的に重要なある現象も、広く観察されました。それが、「自粛」ムードの蔓延です。地震が起きてからの数日間は、全国民がその被害に呆然とし、また原子力発電所の危機的状況に不安を募らせていたのだから、そういう時にレジャーや外食に出かけようという気にならないのは、人間として自然なことです。