連載 第38週 くるり『THE PIER』 ニュー アルバムは、音楽のマッド・サイエンティスト岸田繁が発明したサウンド・マシーン 『THE PIER』は、時代も地域もごちゃまぜの味。どの曲も多様なファクターで構成されていて、まるで“時代も国籍もまたぐ音楽の旅”のよう。未来も太古も、ブラジルも東南アジアも、シタールもシンセもシャッフルされていて、懐かしさと新しさがランダムに心に押し寄せてくる。この楽しさは映画でいえば『ブレードランナー』や『千と千尋の神隠し』、小説で言えば『指輪物語』や『帝都物語』みたい に頭の中を爽快にかき混ぜてくれる。 ただし、こうした楽しみは映画や小説にはあっても、これまであまり音楽にはなかった。ジャンルや楽器に縛られて、ここまでたくさんのアイテムがミックスされた作品はほとんどなかった。ポップ・ミュージックが冒険心に富んでいた1980年前後でさえ、ユーミンの『時のないホ