私はむかし、埼玉の川越の女子高に、通っていた。1980年代後半、当時はまだ、川越は観光地化されていなかったので、埃っぽい、ただの古い街だった。 街のシンボルである『時の鐘』も、他の高い建物に埋もれて、まったく目立たなかった。 時の鐘から遠くない場所に、古い映画館があった。中に入ったことがあるような、ないような、記憶があやふやだ。ただ、そこに『在る』ことだけは知っていた。そして現在、20年かけて、川越はすっかりキレイになり、観光地になった。 明治38年に寄席として開館し、のち昭和15年に映画館となった『川越スカラ座』。時が止まった、まるで映画のセットのような映画館は、まだそのまま、そこにあった。 現在、映画館は、平成19年に家族経営を引き継ぎ、NPO法人プレイグラウンドが運営している。 観光地では、街歩きして遊びたい人が大半であるから、映画館にはなかなか足を踏み入れないが、この映画館を愛