「ユニクロ帝国の光と影」の著者でジャーナリストの横田増生氏が、昨年10月から現在まで、1年にわたってユニクロに潜入取材を行った。 横田氏は、2011年に「ユニクロ帝国の光と影」を出版した。ユニクロは店長や委託工場での長時間労働の記述が名誉毀損に当たるとして、版元の文藝春秋に2億2000万円の損害賠償を求めて提訴した。しかし、東京地裁、東京高裁、最高裁でユニクロは敗訴。 判決確定後、横田氏は決算会見への参加を希望したが、ユニクロは横田氏の書いた別の記事を理由に取材を拒否。また、ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正社長は、ブラック企業批判について、雑誌で次のように語っていた。 <悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね>(「プレジデント」2
戦死者はなぜそこに葬られたのか。蘇我入鹿、壬申の乱、平将門、一ノ谷合戦、楠木正成と新田義貞、関ヶ原合戦、井伊直弼、新選組、江藤新平、西郷隆盛……。全国665カ所の首塚・胴塚・千人塚を検証し、塚をめぐる伝承から、語り伝えてきた人々の戦死者に対する想いを丹念に汲みとっていく。巻末にリスト付き。 洋泉社 1800円+税 「歴史好きな人でも英雄や成功者につい目が行きがちです。敗者に注目することは民俗学者の仕事だと思っています」 室井康成さんは、このたび『首塚・胴塚・千人塚 日本人は敗者とどう向きあってきたのか』を上梓した。本書は、東京・大手町のビルの谷間にある「平将門の首塚」をはじめ、戦死者の亡骸を埋葬した塚状の遺跡と、各地の塚をめぐる伝承を検証している。 中学高校時代から遺跡めぐりが好きだったという室井さん。大学院で民俗学を専攻し、東京大学東洋文化研究所などで研究員をしたり、民俗調査のため韓国に
やまぐちすすむ/1948年生まれ。昆虫・植物写真家、自然ジャーナリスト。著書に『カブトムシ 山に帰る』『地球200周!ふしぎ植物探検記』などがある。ジャポニカ学習帳の「世界特写シリーズ」を約40年間撮影してきたことで知られ、これまで訪れた国は東南アジア・中南米を中心に70カ国以上。 http://susumuyamaguchi.com/ 「昆虫好きになったのは、子どもの頃、海洋生物学者だった父に沼や野原に連れていってもらった影響ですね。アゲハ蝶の標本を父がつくってくれたのを、いまもはっきりと思い出せます」 昆虫・植物フォトグラファーの山口進さんは、ジャポニカ学習帳のカバー写真「世界特写シリーズ」を、約40年間撮影してきたことで知られている。ノートの表紙は、これまでで1200点にもなる。 「大学卒業後は、大手の会社でSEをしていました。ある日デパートの昆虫展で、写真のクレジットに“昆虫写
社会的インフラとも言える存在になった宅配ビジネス。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社は苛烈なシェア争いを繰り広げ、さらに送料無料で即日宅配もするネット通販の隆盛で、宅配現場は壮絶を極めていた。宅配ドライバーの助手や、物流センターの倉庫係のバイトとして潜入し宅配業界を明らかにする。 小学館 1400円+税 「突っ込みどころ満載だったのに、誰も突っ込んでいなかったんです」 アマゾン・ドット・コムの物流センターに潜入したり、ユニクロの内幕を独自取材で明らかにしたりしてきたジャーナリストの横田増生さん。このたび『仁義なき宅配』を上梓した。宅配便業界トップ3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)の歴史と実態を1年半におよぶ取材で明らかにした。物流業界をテーマに選んだきっかけは、妻が利用していた靴のネット通販サイトだった。 「靴のサイズが合わなかったり、イメージと違ったりしたときは返品できるんです
帰り道に遭遇した夜店のような煌煌とした明かり。避難小屋の周囲をまわる錫杖の音。山中で突如現れる真新しい白い道……。マタギなど主に山で仕事をする人々が自ら遭遇した不思議な話集。北秋田の阿仁の集落を中心に、ほか東北、北陸、四国、九州など全国をまわって収集。発売以降、静かに増刷を重ねている。 山と溪谷社 1200円+税 「マタギと狩猟で行動をともにしていると、待機時間って、意外と長いんです。そんな時に、暇つぶしに色々と話が出るんですよ」 マタギカメラマンの田中康弘さんが、最初に聞いた不思議な話は、山中で目撃した白い蛇の話だった。 「“土管のような太さだった”って。それが脳裏から離れなくて。周囲の人に聞くと、きっぱり否定する人と肯定する人にはっきりと分かれます。興味深く思ったのが、本書の取材のきっかけでした」 『山怪』は、主に狩猟など山の仕事をしている人たちが直接体験した不思議な話を集めたエピソー
平時の原発はどんなふうに動かされてきたのか。シンガーソングライターの著者が、原発内をくまなくまわり違反があれば注意する「安全さん」や元東電技術者、『原発放浪記』の著者たちを訪ね歩き、現場の人々の小さな声を聴きとり、原発労働の実態を明らかにしていく。原発問題の今後を考える上で必読の証言集。 講談社現代新書 760円+税 「誰の人生でも、もしかしたらそれが自分だったかもしれないと考えるクセがあります。根本には、人間みんな同じだよねという意識があるんです」 『原発労働者』を執筆した寺尾紗穂さんはそう語る。タイトルだけ見れば、ジャーナリストか市民運動家の書いた本だろうと早合点しそうになるが、著者の寺尾さんはピアノ弾き語りのシンガーソングライターだ。 そもそものきっかけは、寺尾さんが大学生だった2003年にさかのぼる。 「野宿者の支援活動に関わっていた大学の先輩がいて、山谷のドヤ街に連れて行ってもら
1957年静岡県生まれ。奈良女子大学卒業後、奈良新聞社文化面記者から雑誌・単行本の編集者を経て文筆家となる。上古・中古文学に親しみ、著書に『漢字の気持ち』『恋する万葉植物』(ともに共著)がある。 新潮新書 780円+税 「光宙」、「楽汰」、「空翔」、「黄熊」。本書で紹介される「キラキラネーム」のサンプルだ。いくつ読めただろうか。正解は「ぴかちゅう」「るんた」「あとむ」「ぷう」。大方の感想は「親がDQNだと子どもが可哀そう」「こういうのも虐待の一種」……そんなところだろうか。しかし著者の伊東氏によれば、どうやらそれは誤解らしい。 これまでキラキラネームの増殖は、個性的な名前の付け方を推奨した「たまごクラブ」(一九九三年創刊)の影響とする説が有力だった。しかし著者は納得せず、名付けの法則の分析から、さらに「日本語の深い森」に分け入っていく。豊富な実例から辿る“命名の日本史”は実にスリリングだ。
ハンス・ディーター・ツィンマーマン/1940年生まれ。ベルリン工科大学でドイツ文学を講じる。編著に『カフカとユダヤ性』や『チェコ文庫』。本書はハイデッガー兄弟の生活や思想を対比的に描く評伝であり、戦中のドイツの状況を記す歴史書でもある。 平凡社 3000円+税 表紙の写真がまたとない導入になるだろう。中年すぎの二人の男だ。ともにベレーをかぶり、鼻ひげをはやしている。左の男はにこやかな顔、鋭い目、ネクタイ。右の男は茫洋として無表情、ノーネクタイ。左・マルティン・ハイデッガー、高名な哲学者である。右・フリッツ・ハイデッガー、マルティンの弟、田舎町の信用金庫の窓口掛をしていた。ひとこと言いそえると、左の男は写真慣れしていて、にこやかな顔はあきらかにポーズである。目は笑っていない。右の男は写真など一切気にとめていないのだ。 一つの章が五ページ前後、長くて十ページ、全部で二十七章。なんとあざやかなつ
イタリアに留学中の香田節子は、行方不明となった担当教官を捜すうち、現存しないとされるイタリアの国民文学『神曲』のダンテ直筆原稿の存在を知る。明らかになっていく知られざる史実。そして19世紀の芸術家であるロダンが“真実の歴史”を世に問うため、〈地獄の門〉を作成した事実にまでたどり着く。 朝日新聞出版 1800円+税 現存しないとされているダンテの『神曲』の直筆原稿。日本人留学生の香田節子は、ひょんなことからその存在にたどり着く――。ダンテ、コペルニクス、ガリレオ、ロダンといった歴史上の人物を巻き込んだミステリアスな物語を書き上げたのは、イタリア・ボローニャ在住の谷川悠里さん。これがデビュー作だ。 「10代で、親の都合でイタリアに移住しました。人生の半分以上はイタリアで過ごしています」 高等教育をイタリアの学校で受けた谷川さんにとって、『神曲』は馴染み深いものだという。 「日本における『源氏物
12月12日、『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』が小社より発売される。 今年2月、「全聾の作曲家」として有名だった佐村河内守氏に新垣隆氏というゴーストライターが存在したことを、ノンフィクション作家の神山典士氏が小誌でスクープ。その後も取材を続け、単行本を書き下ろした神山氏が語る。 「私は書き手である以前に事件の当事者でした。週刊文春の記事では“私”を消して書き手に徹しましたが、本作は私が佐村河内氏や新垣氏ら事件の登場人物と出会い、そして事件の渦中に身を置きながら事実を明らかにしていく様を描いた“私ノンフィクション”でもあるんです。 また、改めて取材をして感じたのは、新垣氏の才能とクラシックの魅力を誰よりも信じていたのは、皮肉なことに佐村河内氏だったということです。単行本では、事件を起こした2人の“人間らしさ”をより深く、詳しく表現するように心がけました」 少年時代から「大きなことを成し
突然いなくなった妻を捜す雄鶏は、彼女との想い出を辿りつつ東北を旅する。釜石の大観音、津波の被害が残る気仙沼市街、立入禁止区域になった楢葉町、雪の残る本宮市の仮設住宅などの風景がボールペンの優しいタッチで描かれる。野鳥たちに妻の行方を尋ねながら、彼の旅は続く。雄鶏の「本日の食事」コーナーも。 日本文芸社 900円+税 原爆投下後の広島を描いた『夕凪の街 桜の国』や、古事記を漫画化した『ぼおるぺん古事記』で知られるこうの史代さん。「週刊漫画ゴラク」の連載をまとめた『日の鳥』は、いなくなった妻を探して旅する雄鶏を主人公に、震災後の東北の風景を描くスケッチ集だ。 「東日本大震災の1年後から連載を始めました。震災に関して細く長く続けられるものがやりたいと、編集部の方に相談したんです」 2011年8月の岩手県釜石市から、雄鶏の「わたくし」の旅は始まる。震災の跡を残す風景のどこかに「わたくし」の姿があり
いちのせとしや/1971年福岡県生まれ。九州大学文学部史学科を卒業し、同大学院比較社会文化研究科博士課程中退。現在、埼玉大学教養学部准教授。著書に『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」』、『故郷はなぜ兵士を殺したか』、『銃後の社会史』、『旅順と南京』など。 講談社現代新書 800円+税 本書を一読しての率直な感想を言えば、軍事とは確かに物量が軸になるとはいえ、最終的には互いの国の文化や価値観の衝突だということになる。日本軍の戦法を支えた人命軽視(最初からそうだったわけではないが)と、米軍の人命に対するこだわりとを比べても、戦争の行く末は容易に予想できたように思える。 太平洋戦争下、米軍の対日分析の内容はしだいに日本社会や日本軍兵士の本質に近づいていき、その実像を正確に描きだしている。本書の「おわりに」で、著者は、〈(米軍広報誌の描いた)日本兵たちの多くは「ファナティック」な「超人」などではなく、ア
日本国内のみに限らず、世界の睡眠事情も研究対象としてカバーされており、比較文化論の研究書としても興味深い。本書がきっかけとなり、これまで欧州では理解されなかった「イネムリ」という行為がポジティブなものとして、ドイツ語圏で再評価された。自らの睡眠習慣について考えさせずにはおかない1冊だ。 阪急コミュニケーションズ 1785円(税込) 日ごろの疲れや寝不足が溜まって、ついうたた寝をしてしまった経験は誰にでもあるのではないか。ところが、そんな日本人の「居眠り」という習慣は、欧米の人々にはとても奇異に映るそうなのだ。ケンブリッジ大学で文化人類学を研究しているブリギッテ・シテーガさんの著書『世界が認めたニッポンの居眠り』は、そんな日本人の特殊な睡眠習慣について、文化的側面から考察を試みた論考。 「このテーマに興味を持ったのは、20年前に東京で暮らしていた時でした。その頃の日本人は、世界一短い睡眠時間
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く