[文藝春秋 2005年12月5日初版] 谷沢永一の名前を初めて知ったのがいつのことかもう覚えていない。どこかで「谷沢永一に噛みつかれたらおしまい」という怖い書評家という風評をきいたのか、あるいは開高健のエッセイのどこかで読んだのか、あるいは開高をふくむ伝説的同人誌「えんぴつ」の総帥として名前をみたのか、おおかたそのどれかであったのだろうと思う。だいぶ長い間「やざわ」と読むのだと思っていて、「たにざわ」と読むことを知ったのもだいぶたってからであった。 手許にある「完本 紙つぶて」が1978年初版、「紙つぶて 二箇目」が1981年刊行となっているから、「紙つぶて」を読んだのももう30年近く前ということになる。本書はそのかって刊行された書評コラム集「紙つぶて」の各文のすべてに、自文自注として、連歌俳諧における付合の要領で注を付したものである。本文約600字、注約500字。かっての「紙つぶて」がニ