ブックマーク / book.asahi.com (99)

  • 捕獲しても、飼育はひと苦労|好書好日

    クマムシ博士の「最強生物」学講座 [著]堀川大樹 マイナス273度の低温をしのぎ、水深1万メートルの75倍の圧力に耐え、宇宙空間に10日間さらされても大丈夫。そんな「最強生物」クマムシの研究者による科学エッセー。 体長0.1〜1ミリの彼ら。実は、市街地の路上のコケにも潜んでいるそうな。捕獲しても、飼育はひと苦労。ヨコヅナクマムシはミネラル水「ボルヴィック」を浸した培地で、「生クロレラV12」という銘柄しかべないグルメだとか。 著者は仏の研究機関に所属する有期契約の研究員。研究を続けるため、クマムシのゆるキャラを商品化して研究費を捻出しようとする奮闘ぶりも語られる。研究対象並みのしぶとさが頼もしい。 ◇ 新潮社・1260円

    捕獲しても、飼育はひと苦労|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/17
    “ マイナス273度の低温をしのぎ、水深1万メートルの75倍の圧力に耐え、宇宙空間に10日間さらされても大丈夫。そんな「最強生物」クマムシの研究者による科学エッセー。 体長0.1〜1ミリの彼ら…”
  • スティーヴン・キング「11/22/63」書評 過去を変えれば幸せになるのか|好書好日

    11/22/63(上・下) [著]スティーヴン・キング わかりにくい題名だが、つまり一九六三年十一月二十二日という意味だ。この日(日時間で二十三日祝日)、私は確かにテレビでケネディ暗殺のシーンを見た。親戚の家を訪問中で、その部屋の様子まで鮮明に覚えている。暗殺は日の未明だから、その後のニュースだったのだろう。このニュース番組は、日米間初の衛星中継試験放送だった。私は当時十一歳。後の九・一一や三・一一とともに、「あのとき私は」を記憶するような出来事だった。一九四七年生まれの著者のキングは十六歳であった。 主人公ジェイクは二〇一一年のアメリカ北東部メーン州アンドロスコッギン郡リスボンフォールズ(実在の町)に住むリスボン・ハイスクールの教師で、作文の添削や演劇の指導をしている。その作文の中に、社会人学生の書いた、父親の家族殺人が綴(つづ)られた一篇(ぺん)があった。このことが物語の伏線になる

    スティーヴン・キング「11/22/63」書評 過去を変えれば幸せになるのか|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/17
    “幾度も時代を行き来しながら、ジェイクはアルの熱望「ケネディ暗殺を止める」ことを実行しようとする。そのために過去の世界で、テキサス州にまで移動して五年間生活することになる。”
  • 「日本の農業を破壊したのは誰か」書評 農協や農政の甘えの構造指摘|好書好日

    の農業を破壊したのは誰か―「農業立国」に舵を切れ [著]山下一仁 日の農業をめぐっては、「誤った常識」を前提に政策が議論されることが多い。「小さい農家は貧乏」「関税がなくなれば農業は壊滅する」「米国や豪州とは規模が違うので競争にならない」のたぐいだ。 実際は農業収入が少ない兼業農家の方が大きな専業農家より平均所得が高い。野菜や花などは関税がほとんどないが競争力がある。高関税のコメも米カリフォルニア産と国内産の内外価格差は接近しており今の価格でも台湾や香港に輸出されている。書はデータをふんだんに用いて論理的に“農業ムラ”の不都合な真実を明らかにしていく。 著者は元農水官僚だが、自由化を主張しつづけてきた筋金入りの改革派だ。最近もTPP賛成論を掲げ、反対派との論争の先頭に立ってきた。 農協組織や農政の甘えの構造を指摘する著者の舌鋒(ぜっぽう)は鋭く厳しい。ただそれを徹底的に見直せば農業

    「日本の農業を破壊したのは誰か」書評 農協や農政の甘えの構造指摘|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “兼業農家の方が専業農家より平均所得が高い。野菜や花などは関税がないが競争力がある。高関税のコメも…今の価格でも台湾や香港に輸出されている。本書はデータを用いて論理的に“農業ムラ”の不都合な真実を…”
  • 「連続シンポジウム 日本の立ち位置を考える」書評 日米アジア識者の良質な議論|好書好日

    連続シンポジウム 日の立ち位置を考える [編]明石康 戦後日の民間国際交流の草分け・国際文化会館(東京)で行われた日・米国・アジアの有識者19人による連続シンポジウムの抄録。 例えば、日米中の関係一つ取っても多様な視点が提示されている。 近代史をひもときながら「日アメリカとの関係は中国問題によって規定される」と説く加藤陽子。その中国は「日米両国を同時に相手にして戦うことはできない」として、日中関係が悪化しているときは米中関係の安定化を図ると指摘する王緝思。「アメリカも日も日米同盟にばかり集中しない方がいい」と意外な提言をするエズラ・ヴォーゲル……。 日中関係については、五百旗頭真とヴォーゲルが、過去の戦争への反省を土台にしながらも、戦後日中国に行った償いや善行については堂々と筋を通すべきだと見解を一にしている。 加えて、トミー・コーは自国(シンガポール)がマレーシアとの領土

    「連続シンポジウム 日本の立ち位置を考える」書評 日米アジア識者の良質な議論|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “リベラル派と保守派の有識者双方が、左右の極論に走ることなく、良質の議論を展開している点も貴重だ。似た者同士だけで「対話」しがちな日本の論壇の閉塞(へいそく)状況とは異なる開かれた言説空間”
  • 『病の皇帝「がん」に挑む』書評 情熱的に描く、生への希求の歴史|好書好日

    病の皇帝「がん」に挑む―人類4000年の苦闘(上・下) [著]シッダールタ・ムカジー 著者のムカジー氏は、アメリカでがんの治療と研究にあたっている医師だ。彼は娘の誕生を、注射器片手に待ち受けた。臍帯血(さいたいけつ)を採取し、がん患者の治療に役立てるためだ。そんなムカジー氏が、専門家として、多くの患者さんと向きあってきた一人の人間として、「がんとはなんなのか」「人類はがんにどう挑みつづけているのか」を、科学的かつ情熱的に解説する。 上下巻の大著だが、ぐいぐい読める。私のように医学的な知識がないものが読んでも、わかりやすい。いまから約4千年前、古代エジプトの時代に、人々は乳房にできる「しこりの病」の存在にすでに気づいていた。紀元前500年ごろ、ペルシアの王妃アトッサは、乳房の腫瘍(しゅよう)摘出手術を受けた。 その後も人類とがんとの戦いはつづく。まじない、体から血を抜く瀉血(しゃけつ)など、

    『病の皇帝「がん」に挑む』書評 情熱的に描く、生への希求の歴史|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “がんの歴史を知ることは、人類の「生」への希求の歴史を知ることだ。本書の言葉を借りれば、そこには「何一つ、無駄な努力はなかった」。敗者は一人もいない。知りたいし生きたいと願い…人間の輝きと苦難と喜び”
  • 「ルポ 虐待―大阪二児置き去り死事件」書評 浮かび上がる有象無象の矛盾|好書好日

    ルポ 虐待―大阪二児置き去り死事件 [著]杉山春 2010年夏、大阪の繁華街近くのマンションで、3歳と1歳の子どもたちが遺体で見つかった事件は、記憶に新しい。当時23歳のシングルマザーだった母親の育児放棄(ネグレクト)による死と報道された。繰り返し映される子どもの元気だったころの写真と、風俗店勤務だった母親の宣伝写真。50日間にわたり子どもを放置した、その間遊びまわる姿をSNSにアップしていた、リビングの外から粘着テープを貼り、玄関に鍵をかけて出た……等々、身勝手な母親の姿を先鋭化する情報が、メディアに躍った。 彼女は、当に子どもたちを殺す気だったのか? 重く複雑な問いを軸に、筆者は丹念に取材を重ねていく。「虐待」の一言で片づけられる問題の背景にある、有象無象の矛盾。浮かび上がるのは、母親の半生に詰め込まれた不条理だ。精神的に不安定な実母と実父は離婚、自分の問題と正面から取り組むために必

    「ルポ 虐待―大阪二児置き去り死事件」書評 浮かび上がる有象無象の矛盾|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “20歳で母になった彼女は…22歳で離婚。家族会議で彼女は、子どもたちを一人で責任を持って育てることを言い渡され、「家族には甘えない」「夜の仕事はしない」等の誓約書まで書かされていた”
  • 「ヒッグス―宇宙の最果ての粒子」書評 ノーベル賞もたらした大発見|好書好日

    ヒッグス―宇宙の最果ての粒子 [著]ショーン・キャロル 今年のノーベル物理学賞は、ヒッグス粒子なるものの存在を半世紀前に予想した2人の理論物理学者が受賞した。昨年、スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機関(CERN)の実験で、同粒子が実際に「発見」されたことが直接の理由だ。米国の理論物理学者の手になる書は、素粒子理論の構築と発見をつぶさに追った科学読み物。 では、ヒッグス粒子とは何か。これが一言では語りにくい。粒子と対になったヒッグス場のおかげで、この世界に「質量」が生まれたとか、必ずしも正確ではない(間違いともいえない)解説が流布していて、書はそのあたりを丁寧に解きほぐす。中学の理科第1分野が大嫌いだったという人にはあえてお奨(すす)めしないが、原子模型を興味深く眺めたことがあるような人なら、自分自身の読解力に応じた理解が得られるはずだ(多少差が出るのは仕方ない)。 著者はこの

    「ヒッグス―宇宙の最果ての粒子」書評 ノーベル賞もたらした大発見|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “ヒッグス粒子とは何か。これが一言では語りにくい。粒子と対になったヒッグス場のおかげで、この世界に「質量」が生まれたとか、必ずしも正確ではない(間違いともいえない)解説が流布していて、本書は…”
  • 沢木耕太郎「流星ひとつ」書評 行間に思い広がる、人間・藤圭子の姿|好書好日

    流星ひとつ [著]沢木耕太郎 先日自殺した藤圭子。書は作家の沢木耕太郎氏がかなり前に、彼女に対して行ったインタビューをもとに書かれた作品だ。 ことの起こりは34年前。当時、人気の頂点を極めた歌手の藤圭子が28歳の若さで突如引退を表明。沢木氏はその真相を聞き出すため、ホテルニューオータニのバーで彼女にインタビューを試みる。まもなく原稿は書き上げられ、公刊の手筈(てはず)も整ったが、しかし沢木氏は直前になってこの作品を世に出さずに封印したという。 書き方はきわめて挑戦的だ。このは沢木氏と藤圭子のカギかっこによる会話文だけが延々と続き、地の文による背景説明や情景描写が全然ない。しかしそれでいて500枚にも及ぶボリュームの原稿が質の高い作品として成立しており、読む者を飽きさせない。駆動力を持たせているのは音を聞き出す沢木氏の巧みなインタビュー術と、スリリングな文体によるところが大きい。さりげ

    沢木耕太郎「流星ひとつ」書評 行間に思い広がる、人間・藤圭子の姿|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/08
    “34年前。当時、人気の頂点を極めた歌手の藤圭子が28歳の若さで突如引退を表明。沢木氏は…彼女にインタビューを試みる。…公刊の手筈も整ったが、しかし沢木氏は直前になってこの作品を世に出さずに封印”
  • 「『平家物語』の再誕」書評 平清盛は「英雄」ではなかった|好書好日

    『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩 [著]大津雄一 『平家物語』が叙事詩であり平清盛は英雄として描かれているという評価は大学生のころに読んだ。しかし日には「叙事詩」はなく、英雄という概念もない。『平家物語』には日武士道が描かれているという評価もあったが、武士道という概念は中世には無い。いずれも明治以降の欧米化にともなって、西欧文学・文化の基準を日文学に当てはめた評価だったのである。 日の文学や文化を研究する者は常に時代の言葉に巻き込まれる。注意深く言葉を使わねばならない。もっとも気をつけるべきなのは、伝統が政治に利用される場面だ。武士道は国体と合体して、あたかも伝統であるかのように振る舞った。『平家物語』も国民道徳、国民精神を研究する資料とされたことがあって、皇国文学とか国民文学と呼ばれた。それが蘇(よみがえ)らないとも限らない。著者が言うように、日の特殊性を語るためにでは

    「『平家物語』の再誕」書評 平清盛は「英雄」ではなかった|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “『平家物語』が叙事詩であり平清盛は英雄・・・という評価は大学生のころに読んだ。しかし日本に「叙事詩」はなく英雄という概念もない…武士道が描かれているとの評価もあったが武士道という概念は中世には無い”
  • 「カッパ・ブックスの時代」書評 熱い本作りの場、暗転の軌跡描く|好書好日

    カッパ・ブックスの時代 [著]新海均 1970年代、小学生のときにはじめて手にした大人向けのといえば、カッパ・ブックスだ。『頭の体操』『ウンコによる健康診断』など、居間に転がっていたのを夢中になって読んだ。子どもにも分かる文と構成で書かれていた。 この「大衆向け教養路線の新書」が作られた背景には、知識人向けブランドとして既に確固とした地位を築いていた岩波新書への対抗心があったのだという。 書は敗戦の年に創業した光文社の軌跡を、54年に創刊したカッパ・ブックスを中心に据えて描くノンフィクション。 高度経済成長期、そのものが、良く売れた時代のなかでも、カッパ・ブックスはダントツの売り上げを誇っていた。子どもだった私でも知っているベストセラータイトルが沢山(たくさん)ある。 前半はそんな黄金期。ベストセラー、ミリオンセラーと、それをたたき出した伝説の編集者たちが魅力的に描かれる。才能、個性

    「カッパ・ブックスの時代」書評 熱い本作りの場、暗転の軌跡描く|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “この「大衆向け教養路線の新書」が作られた背景には、知識人向けブランドとして既に確固とした地位を築いていた岩波新書への対抗心・・・光文社の軌跡を、54年に創刊したカッパ・ブックスを中心に据えて描く”
  • 「未来の食卓―2035年 グルメの旅」書評 第二のサーモン、疑似肉…|好書好日

    未来の卓―2035年 グルメの旅 [著]ジョシュ・シェーンヴァルド 20年後の消費者の舌と胃袋を満足させる材は何か。著者はさまざまな材開発に挑む研究者、市場関係者らを端から訪ね歩く。にハイテクをもちこむことに抵抗感があった著者だが、取材を重ねるうちに考えを変えていく。 いまや遺伝子工学を利用すれば野菜の栄養素を強化するのはたやすい。「第二のサーモン」の呼び声高い白身の塩水魚スギは陸上養殖場での大量生産が試みられている。 さらに遠大な取り組みも紹介される。オランダの研究チームは試験管で鶏や豚の細胞から疑似肉を作り出そうとしている。米国防総省は、兵士が何日も過ごせる錠剤の開発に取り組んでいる。 私たちの健康や生命にかかわる話だけに空恐ろしい気持ちにもなる。ただ、著者が言うように有機農法だけで途上国の栄養不良は救えないし、増え続ける世界人口は養えない。たとえ不快かつ奇抜な試みだとしても

    「未来の食卓―2035年 グルメの旅」書評 第二のサーモン、疑似肉…|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “いまや遺伝子工学を利用すれば野菜の栄養素を強化するのはたやすい。「第二のサーモン」の呼び声高い白身の塩水魚スギは陸上養殖場での大量生産が試みられている。 さらに遠大な取り組みも紹介…”
  • 「炭素文明論」書評 希少元素をめぐる人類の争い|好書好日

    炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書) 著者:佐藤 健太郎 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット 炭素文明論―「元素の王者」が歴史を動かす [著]佐藤健太郎 炭素は人類にとってなくてはならない元素である。人類の存在はまさに炭素のもとでなりたっているとさえいっていい。たとえば人体から水分を除いた体重の半分は炭素によって占められているという。人類が生存するためには物とエネルギーが不可欠だが、それらも炭素を基とした化合物(炭素化合物)によってできている。私たちの暮らしをみまわしても、炭素を含んでいないのは金属やガラス、石ぐらいだ。私たちの文明社会そのものが炭素なしには考えられないのである。 書はその炭素に注目し、人類がどのように炭素を活用してきたか、そしてそれによってどのように文明が発達し、歴史がくりひろげられてきたのかを概観したである。デンプン、砂糖、ニコ

    「炭素文明論」書評 希少元素をめぐる人類の争い|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “本書はその炭素に注目し、人類がどのように炭素を活用してきたか、そしてそれによってどのように文明が発達し、歴史がくりひろげられてきたのかを概観した本である。デンプン、砂糖、ニコチン、カフェイン…”
  • 「私の本棚」書評 蔵書家の業の深いことよ|好書好日

    私の棚 [編]新潮社 読書家23人が棚への思いをつづったエッセー集。えり抜いたコレクションへの愛情よりも、棚から床へあふれ出す蔵書の苦悩を吐露するほどに、語りは熱を帯びてくる。作家小野不由美さんは全蔵書が収まる棚をつくるため、一冊一冊の背表紙の幅を計測! 総延長43万8400ミリ也。作家唐沢俊一さんは買い込んだ段ボール箱の山に寝室を占拠されながら、もはや「開けるのが怖い」とのたまう。 買うから苦しむのは自明のこと。それでもやめられない、蔵書家の業の深いことよ。なんだか、道ならぬ恋におぼれる人を見守る気分。仏文学者鹿島茂さんは「愛書家」ならぬ「愛憎書家」と呼んでもらいたいそうな。 ◇ 新潮社・1365円

    「私の本棚」書評 蔵書家の業の深いことよ|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “買うから苦しむのは自明のこと。それでもやめられない、蔵書家の業の深いことよ。なんだか、道ならぬ恋におぼれる人を見守る気分。仏文学者鹿島茂さんは「愛書家」ならぬ「愛憎書家」と呼んでもらいたいそうな。”
  • 『「山月記」はなぜ国民教材となったのか』書評 教科書とは何か、問い直す|好書好日

    「山月記」はなぜ国民教材となったのか [著]佐野幹 戦後高校に通ったほとんどの者が中島敦「山月記」を教材に国語の授業を受けた。教科書の最多掲載回数を誇り「国民教材」とまで呼ばれるそうだ。しかし教員である著者は、授業をしつつ「ふと、今、自分が何をしているのか分からなくなる瞬間」があるという。その違和感を追い、1951年以降の203の教科書や、教師用「学習の手引き」を精査、時代ごとに作品がどう教えられてきたか炙(あぶ)り出す。 80年代に高校教育を受けた評者の記憶では、「李徴が虎になった理由」を問われ「人間性の欠如」を一つの解として与えられた。これは、主題の読解を目的とした教授法として一時代を築き、同時に大いに批判に晒(さら)されたものであるという。確かに来の「古譚(こたん)」4作品の一つとして「山月記」を読めば唐突な解釈だ。それなのに教育現場で受け入れられた理由は……。 教育とは何か、教科

    『「山月記」はなぜ国民教材となったのか』書評 教科書とは何か、問い直す|好書好日
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    gryphon 2013/11/03
    “80年代に高校教育を受けた評者の記憶では「李徴が虎になった理由」を問われ「人間性の欠如」を一つの解として与えられた。これは主題の読解を目的とした教授法として一時代を築き、同時に大いに批判に晒された”
  • 「マチュピチュ探検記」書評 漂う熱気、発見者の足跡たどる|好書好日

    マチュピチュ探検記―天空都市の謎を解く [著]マーク・アダムス 広大な荒野を苦労して旅しても面白い物語を書くことは難しい。危機一髪の出来事なんてそうはないし、単調な風景をだらだら記述しても退屈なだけだ。だからこうした探検記には、自分の旅にその土地の謎や過去の探検の過程を絡めて、読み物としてスリリングに仕上げた作品が案外多い。書もそうした一冊で、マチュピチュ遺跡を「発見」し、インディ・ジョーンズのモデルとも言われた探検家ハイラム・ビンガム三世の足跡をなぞったものだ。 有名なマチュピチュだが、建造された目的は今も不明である。スペインに追われた落日期のインカ皇帝が秘密裏に建造した幻の都なのか、あるいはただ単に全盛期に造られた山上の避暑地に過ぎないのか。著者はビンガムが見た風景を自らの足でたどり、この謎に愚直に取り組んでいく。 書で描かれるビンガムはどことなくピーターパン的だ。発見といったって

    「マチュピチュ探検記」書評 漂う熱気、発見者の足跡たどる|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “有名なマチュピチュだが、建造された目的は今も不明である。スペインに追われた落日期のインカ皇帝が秘密裏に建造した幻の都なのか、あるいはただ単に全盛期に造られた山上の避暑地に過ぎないのか。”
  • 「忘却のしかた、記憶のしかた」書評 日本学者として日、米、世界見直す|好書好日

    忘却のしかた、記憶のしかた 日アメリカ戦争 著者:ジョン・W.ダワー 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗 忘却のしかた、記憶のしかた―日アメリカ戦争 [著]ジョン・W・ダワー 書は、著者の主要な仕事のエッセンスを、自身による解題を付して、年代順に配列したものである。「ダワー入門」と呼んでもよいだ。内容的にいえば、マッカーシズムの時期に自殺に追い込まれたカナダの日学者E・H・ノーマンについての論考から始まり、イラク戦争に際して米国当局が、かつて“成功”した日占領の体験をモデルにしようとしたことに対する痛烈な批判にいたる。 著者の『敗北を抱きしめて』は、占領下の日社会について包括的に書かれた最良の書である。このは米国でピュリツァー賞を受けたが、イラク戦争で日占領経験を引き合いに出した当局がこれを読んだはずがない。著者の考えでは、イラクは日と似ていない。むし

    「忘却のしかた、記憶のしかた」書評 日本学者として日、米、世界見直す|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “本書は、著者の主要な仕事のエッセンスを、自身による解題を付して、年代順に配列したものである。「ダワー入門」と呼んでもよい本だ”
  • 「シャルル・ドゴール」書評 外交や歴史観、底部から分析|好書好日

    シャルル・ドゴール 民主主義の中のリーダーシップへの苦闘 著者:渡邊 啓貴 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:社会・時事・政治・行政 シャルル・ドゴール―民主主義の中のリーダーシップへの苦闘 [著]渡邊啓貴 フランス人ジャーナリストとの対話で、彼がドゴールに批判的な言を吐いたのに応じて、私も日に伝わるその偏狭さを冷たく論じたら、彼はいきなり激怒して、「日人に彼の批判は許さない」と言われたことがある。日米関係の主従の間柄に慣れきっている日人に、ドゴールの存在など理解できまいとの意味が含まれていた。 書は日人研究者のドゴールの評伝だが、単にその枠にとどまらず20世紀の二つの大戦とその後の国際社会での「ドゴール外交」や「ドゴール的歴史観」をその底部から分析、解説した書である。ドゴールの出自から死までの歩みが、日でも初めて紹介されるエピソードを交えて語られる。障害を持つ次女アンヌを

    「シャルル・ドゴール」書評 外交や歴史観、底部から分析|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “フランス人ジャーナリストとの対話で、彼がドゴールに批判的な言を吐いたのに応じて、私も日本に伝わるその偏狭さを冷たく論じたら、彼はいきなり激怒して、「日本人に彼の批判は許さない」と言われたことがある”
  • 「猿まわし 被差別の民俗学」書評 あがめられ差別された祈る人々|好書好日

    猿まわし 被差別の民俗学 [著]筒井功 人と猿の関係を解く書物は今までにもあった。猿とは何かを民俗学的に解説する書物も存在する。むろん、芸能民としての猿まわしや猿引きについても、民俗芸能のテーマとして、あるいは差別の問題として書かれてきた。 書がそれらと何が異なるかというと、一つは猿まわしが担ってきた「隠密」、つまりスパイとしての役割をはっきり書いたことである。そしてもうひとつは、猿まわしが牛馬の祈祷(きとう)に特化したシャーマンであったことを、明らかにしたことである。 江戸時代の浅草には、弾左衛門(だんざえもん)屋敷を中心とする特別な町があった。ここには死牛馬の皮を扱う職人を中心に、木綿を売る店、質屋、湯屋、髪結い、公事宿(くじやど)などがあり、猿飼の家も十数軒あったという。 しかしそれは猿が芸を見せてお金をもらう芸人とは異なる役割をもっていた。将軍家、御三家、旗、大名屋敷などに出向

    「猿まわし 被差別の民俗学」書評 あがめられ差別された祈る人々|好書好日
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    gryphon 2013/11/03
    “そこは被差別の町である。しかし江戸時代の被差別民は、社会が必要とした職人たちであった。皮や竹細工の職能もそうだが、祈祷者もまた欠かせない存在だったのだ。それを著者は「イチ」という言葉を軸に展開する”
  • 森達也『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』書評 当事者の代弁に隠れている欺瞞|好書好日

    「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい 正義という共同幻想がもたらす当の危機 著者:森 達也 出版社:ダイヤモンド社 ジャンル:社会・時事・政治・行政 「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―正義という共同幻想がもたらす当の危機 [著]森達也 とても長い、しかも問いかけの形を採った題名。その言葉の響きは挑発的でさえある。では、いったい何を問おうというのか。BS放送の対談番組で死刑廃止論を展開した際に(森氏の死刑論は『死刑』に詳しい)一部の視聴者から寄せられた批判の多くが、「死刑制度がある理由は被害者遺族のため」という論調であったことに対して、著者はこう問う。「もしも遺族がまったくいない天涯孤独な人が殺されたとき、その犯人が受ける罰は、軽くなってよいのですか」。詭弁(きべん)のように聞こえるかもしれないが、続けて読んでいくと、著者が

    森達也『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』書評 当事者の代弁に隠れている欺瞞|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    「詭弁のように聞こえるかもしれないが、続けて読んでいくと、著者がこだわっているのが、いわゆる「当事者」性という問題…当事者を代弁してみせる行為の内には、まぎれもない善意と同時に、一種の無自覚な欺瞞」
  • 「翻訳がつくる日本語」書評 なぜ性別が強調されるのか|好書好日

    翻訳がつくる日語―ヒロインは「女ことば」を話し続ける [著]中村桃子 現代日で暮らしていて、「私は賛成ですわ」「俺はかまわないぜ」といった言葉づかいをするひとに、私は遭遇したことがない。 しかし、日語に翻訳された外国人の発言(あるいはセリフ)で、過剰な「女ことば」や「気さくな男ことば」、どこの方言だか不明な「ごぜえますだ」といった言葉が使われていても、なんとなく受け入れている。 日語への翻訳の際、なぜ、「女性」「気さくさ」「黒人」といった性別、性質、人種を強調するような表現が採られてきたのか。その変遷をたどり、分析研究したのが書だ。 「日語および日語を使っている人々に、翻訳が与えた影響」という観点が非常に興味深い。我々は日々翻訳物に接しているため、実際にも「女性は女ことばを使っている」ように錯覚する。その錯覚がまた、翻訳家が外国人女性の発言を「女ことば」で訳す原因にもなる。つ

    「翻訳がつくる日本語」書評 なぜ性別が強調されるのか|好書好日
    gryphon
    gryphon 2013/11/03
    “現代日本で暮らしていて「私は賛成ですわ」「俺はかまわないぜ」といった言葉づかいをするひとに、私は遭遇したことがない。 しかし日本語に翻訳された外国人の発言(あるいはセリフ)で、過剰な「女ことば」・・