中国の歴史の中で、軍の位置付けは常にやっかいな問題だった。国が丸抱えすれば財政が破綻するし、地方に委任すれば内乱の温床となる…。中国独特の軍と政治の悩ましい関係を切り口にしたユニークな通史『〈軍〉の中国史』(講談社現代新書)を刊行した澁谷(しぶたに)由里・帝京大教授(48)は「この歴史は現代の人民解放軍を考える際にも参考になる」と語る。 もともと、張作霖など中華民国時代の「軍閥」を研究していた澁谷教授。軍閥とは当時の中国に特有の地方に割拠する私的軍事集団であるが、中世史の研究などを参照するうちに、「意外と昔からある存在なのではないか、と近代からさかのぼる形で考えるようになった」のが本書だという。 国土が広大で、かつ北方や西方の異民族との攻防が絶えない中国は、どうしてもある程度の規模の軍隊を必要とした。強大な直轄軍を作るのは皇帝にとって理想的であるが、莫大(ばくだい)な経費と民への大きな負担