ヒトゲノムを解読した男―クレイグ・ベンダー自伝 [著]J・クレイグ・ベンダー[掲載]2009年1月25日[評者]尾関章(本社論説副主幹)■人が人の設計図を手にするまで 振り返れば、人知が飛躍した世紀末だったということになるのだろうか。90年代に急進展したヒトゲノム(全遺伝情報)解読のことである。 人が人の設計図を手にするという偉業は、米国の政府がかかわる国際チームと、米ベンチャー企業が競い合って成し遂げた。この本は民陣営の要となった科学者の自伝だ。 行動力がすごい。ハエのゲノムを論文にしたとき「いっせいに分析し、さっさと事を片づける」ため、一線の研究者約40人を集めて泊まり込ませ、10日ほどで成果を得た。 したたかでもある。解読データの公開を主張しながら、現実には特許志向の強い実業人と手を結んだ。公の側はヒトではなくマウスのゲノムをなどと相手を刺激しながら、00年には公陣営と密談を重ね、米