選好強度の比較について 奥野 満里子 功利主義に対する代表的な批判の一つは、効用の(快苦の、あるいは最近の功利主義理論で言われるところでは、欲求・選好の強さの)個人間比較の困難さ、もしくは不可能性を指摘するものである。しかし、我々人間にそのような比較が完全に正確にできると断言する者は、実際、功利主義者の間でも滅多にいない。にもかかわらず、功利主義者は、たとえ不完全にしかできないにしても、道徳的決定にあたってはそうした個人間比較がどうしても必要だと主張するのである。では、(1) 功利主義者が、ある種の個人間比較――後に述べるように、これは選好強度の個人間比較として考えられる――の必要性を主張するのはなぜか。また、(2) その種の比較を敢行する場合、比較を行なうためにどのような手続きが必要であるか。そして、(3) その種の比較に困難が生じるとしたら、それは正確にはどの部分に生じるのだろうか。本