先ごろ亡くなったイタリアの作家、ウンベルト・エーコは記号論を駆使した小説『薔薇の名前』で名をはせた人だが、政治評論でも予言的な面白い作品を残している。今回は邦訳もある『永遠のファシズム』(岩波書店、和田和彦氏訳)のエーコの言葉から、日本の現在を考えてみたい。 ファシズムとは、<一枚岩のイデオロギーではなく、むしろ多様な政治・哲学思想のコラージュであり、矛盾の集合体>だ。 イタリアで始まったムッソリーニのファシスト党という名から、ファシズムは全体主義を指す言葉とみられてはいるが、「イズム」と呼べそうな明確な主義主張も、それを突き動かす存在もないと、エーコは言い切っている。要はコンピューターのCPUのように、それを壊せばすべてが崩れる中央制御がない。 ファシズムとは、まるで脳のように、膨大な数の細胞が複雑につながり一つのネットワークを築いており、すべてを統括する部位はない。私にはそう読み取れる