一橋の学問を考える会 [橋問叢書 第四十三号]社会史とはどういう学問か 一橋大学社会学部教授 阿部 謹也 はじめに 本日は大変名誉ある会に御招待をいただきましてありがとうございました。 いまお話しがありましたように社会史という学問は、戦前から名前としてはございますが、例えば、三木清、本多謙三、林達夫氏らの「社会史的思想史』あるいは喜田貞吉さんなどが社会史という言葉を使っておられますけれども、いまわれわれが考えている社会史という学問はごく最近、せいぜいこの二十年ぐらいの間に起こってきたものと言って差し支えないかと思います。 歴史をさかのぼれば戦前までいくのですけれども、日本では比較的新しい学問です。そして社会史について語るとなると大変むずかしい問題があるわけです。 例えば、増田四郎先生もごく最近岩波書店から『ヨーロッパ中世の社会史』という本を書かれております。そのほかに社会史と名を付けられた