北関東、故郷前橋をはげしく嫌悪した詩人がいた。しかし彼を惹きつけて止まない都会もまた、蠱惑的な魅力とともに、近代日本社会の病んだ姿を曝(さら)けだしていた。地方にも都会にも精神の安定を得られる場所は、どうやらないらしい。では僕はいったいどこへ行けばいいのだ? そもそも何者なのだろう-こんな問いを抱えて、1930年代を生きていた詩人がいた。本日の主人公・萩原朔太郎である。 朔太郎は詩人として『月に吠える』『青猫』などの作品集を出すとともに、批評家として数々のアフォリズムを遺(のこ)した。アフォリズムとは、警句を含んだ短文集のことである。そこには自らが生きる時代、すなわち「近代」への違和感が赤裸々に綴られていて、とても興味深い。 たとえば近代社会を経済からみた場合、「資本主義」と定義できるだろう。同様に、政治を専門とする人からみれば「議会制民主主義」こそ、近代の象徴となる。科学者からすれば、そ