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2009年3月16日のブックマーク (25件)

  • ジョージ・メレディス『エゴイスト』全二巻 - 書物を積む者はやがて人生を積むだろう

    久しぶりのヴィクトリア朝イギリス小説。 エゴイスト〈上〉 (岩波文庫) 作者: G.メレディス,George Meredith,朱牟田夏雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1978/05/16メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 43回この商品を含むブログ (2件) を見るエゴイスト〈下〉 (岩波文庫) 作者: G.メレディス,George Meredith,朱牟田夏雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1978/07/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 9回この商品を含むブログ (1件) を見る それからもう一つ、病身の紳士の話で、人間性の機微にふれたのを話した。その紳士の細君がたまたま重態になった。と紳士は、病室の外に集まって相談をかわしていた医師たちのもとに行くと、涙を浮かべて、一生のお願いだから何とか私のためにあわれなを助けてほしいと哀願してこういった。「

    ジョージ・メレディス『エゴイスト』全二巻 - 書物を積む者はやがて人生を積むだろう
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    文体が『虞美人草』など初期の漱石作品に影響を与えている
  • 人力検索はてな - 【初心者に薦められる小説】 最近よく「どういう本がおすすめ?」と聞かれるので、初心者でも楽しめる小説10冊を考えることにしました。

    【初心者に薦められる小説】 最近よく「どういうがおすすめ?」と聞かれるので、初心者でも楽しめる小説10冊を考えることにしました。 どんな人でも、この10冊のうちだったら最低でも1冊には感動する! または面白い! と感じる10冊を選びたいと思います。 ポイントは ・あんまり長くない ・難解な比喩、抽象的な概念を取り扱ったものなどは却下 ・リズムやテンポがいい。ストーリー展開が速い ・あくまで小説を教科書以外には読んだことがない、みたいな人向け。 ・猟奇的なもの、極度にえっちぃものは却下 ・絵とか、薦められた方がちょっと馬鹿にされた気分になるものは却下。 ※決して絵を馬鹿にしてるわけじゃないです。大人が読むに堪えうる絵もたくさんありますが、要は受け手側の問題です。 ・専門知識を必要とするものは却下。 です。 どうぞ読書好きのみなさまの経験から、10冊をお選びくださいませ。 ちなみに、僕

  • カーテン―7部構成の小説論 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『カーテン―7部構成の小説論』 ミラン・クンデラ   ☆☆☆☆☆ ミラン・クンデラは大好きな作家で、翻訳されているものはすべて読んでいる。書は小説でなく評論集だが、Amazonで発見してあわてて入手、むさぼるように読了した。 クンデラの評論というと他に『小説の精神』『裏切られた遺言』があるが、もともとこの人の小説は「小説的思考」のせめぎあう場であり、ストーリーの中でエッセーや考察がどんどん展開されるので、そういう意味では評論でも小説とほとんど同じ愉しみを味わえる。普通に物語作家のように、小説と評論(エッセー)が明確に分かれていないのだ。特に『裏切られた遺言』はカフカの遺言を全体を貫くモチーフとしていて、読み通すと長編小説を読んだ時と同種の感動を味わえるという、とても小説的な傑作評論集であった。 書でもそのスタイルは引き継がれている。音楽のように反復されるいくつかのモチーフ、お得意の7部

    カーテン―7部構成の小説論 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    セルバンテス『ドン・キホーテ』、カフカ『城』、トルストイ『アンナ・カレーニナ』、フローベール『ボヴァリー夫人』、ガルシア・マルケス『百年の孤独』(「もっとも偉大な詩作品の一つ」)、フエンテス、大江健三郎
  • アフリカの印象 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    アフリカの印象』 レーモン・ルーセル   ☆☆☆☆☆ 奇書、という言葉のイメージをあますところなく体現した驚異の書物である。 構成は大きく二部構成に別れている。前半ではアフリカのポニュケレ国にいる「私」達が見聞きする、驚くべき超自然的光景、オブジェの数々がひたすら列挙される。その文章がいかにも冷静で、淡々としていて、機械的で、微に入り細を穿つほど詳細なのも異様な感じがする。そして第二部では、第一部で何の説明もないままに列挙された驚愕的光景の数々の背景、経緯が、これまた淡々と機械的に詳細に報告されていく。 驚愕的光景とは何かというと、例えば次のようなものだ。 ● 仔牛の肺臓でできたレールの上を走る、鯨の髭だけで作られた見事な彫像。 ● 女達が猛烈なゲップをしながら優美に踊る宗教的儀式。 ● 水銀のように重い水を使ってチターを演奏する大ミミズ。 ● 大きな口の四つの部分が別々に歌うことにより

    アフリカの印象 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    "陳列型小説=ルーセル「アフリカの印象」「ロクス・ソルス」、カルヴィーノ「見えない都市」、アントニオ・タブッキ「夢の中の夢」、アラン・ライトマン「アインシュタインの夢」。ルーセルの虚構性は群を抜いてる"
  • 『フランス短篇傑作選』 山田稔編訳 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『フランス短篇傑作選』 山田稔編訳   ☆☆☆☆☆ 再読。随分昔に買った岩波文庫だが、とてもいい短篇集なので時々引っ張り出しては読んでいる。収録されている作家はリラダン、シュオッブ、プルースト、デュラス、シュペルヴィエルなどめまいがするほどの超豪華メンバー。収録作品は以下の通り。 「ヴェラ」ヴィリエ・ド・リラダン 「幼年時代―『わが友の書より』」アナトール・フランス 「親切な恋人」アルフォンス・アレー 「ある歯科医の話」マルセル・シュオッブ 「ある少女の告白」マルセル・プルースト 「アリス」シャルル=ルイ・フィリップ 「オノレ・シュブラックの失踪」ギョーム・アポリネール 「ローズ・ルルダン」ヴァレリー・ラルボー 「バイオリンの声をした娘」ジュール・シュペルヴィエル 「タナトス・パレス・ホテル」アンドレ・モーロワ 「クリスチーヌ」ジュリヤン・グリーン 「結婚相談所」エルヴェ・バザン 「大佐

    『フランス短篇傑作選』 山田稔編訳 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • フランス幻想小説傑作集 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『フランス幻想小説傑作集』 窪田般弥・滝田文彦 編   ☆☆☆☆☆ 昨日読了。フランス人作家のアンソロジーとしては他に『フランス短篇傑作選』、『怪奇小説傑作集4』(澁澤龍彦・青柳瑞穂訳)を持っているが、どれもはずれがない。内容的にはなんとなく似たような感じではあるが、良いものは良い。書も当にレベルが高い。 今『独逸怪奇小説集成』というのもボチボチ読んでいて、これも幻想的な短篇アンソロジーということで似ているが、国民性の違いというものが感じられて面白い。誰かが解説に書いていたが、フランスの短篇、特に幻想的な短篇というのは散文詩に接近する傾向があって、非常にポエティックだ。そして重くならずにどこか軽さがある。もちろん例外はあるが。 書のラインアップは以下の通り。錚々たるメンバーだ。 『州民一同によって証言された不可解な事件』 D=A=F・ド・サド 『不老長寿の霊薬』 オノレ・ド・バルザッ

    フランス幻想小説傑作集 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 怪奇小説傑作集4 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『怪奇小説傑作集4』 澁澤龍彦、青柳瑞穂訳   ☆☆☆☆ 創元社の怪奇小説傑作集4巻目、フランス篇である。編者が澁澤龍彦なので以前からこれだけ持っていたが、イギリス篇の『怪奇小説傑作集1』を読んだので再読してみた。イギリス篇とは大分異なり、怪談というより幻想譚という方がふさわしい短篇が多い。 非常に豪華なラインナップで、サド、ノディエ、メリメ、ネルヴァル、モーパッサン、シュオッブ、アポリネールと純文学畑のビッグネームが多い。そういう意味では『怪奇小説傑作集1』より『日怪奇小説傑作集1 』に近い印象を持った。澁澤龍彦自身、解説で「あまりに純文学的にすぎて、エンタテインメントとしては物足りないと感ずる向きもあろうかと思う」といいながらも、「どれ一つとして、粒選りの名作でないものはない」と太鼓判を押している。澁澤ワールドに惹かれる人にはやはり必読の書ということになるだろう。 色んなタイプの短篇

    怪奇小説傑作集4 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • レベッカ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『レベッカ(上・下)』 ダフネ・デュ・モーリア   ☆☆☆☆☆ ヒッチコックの映画化で有名なデュ・モーリアの『レベッカ』。最初に読んだのは中学か高校の頃だったと思うが、それ以来なぜか病みつきになり何度も読み返している。読んでしばらくするとまた読みたくなってくるのだ。 最初に読んだ時はまったく予備知識なしに読み始め、冒頭を読んでこれは恋愛心理小説だなと思った。劣等感のカタマリのようなヒロインが思いがけず上流階級の仲間入りをし、ほとんど完璧な貴婦人であったらしい前レベッカの影に引け目を感じつつ、夫の愛情を得ようと涙ぐましい努力をする。ミステリばかり読んでいた子供にとってこのゆったりした展開、女性心理の機微の細かい描写は退屈で、途中まで読むのに随分と時間がかかった。ところが後半に入って意外な展開になり、ようやくこの小説がただの恋愛小説でないことに気づいた。そこからの面白さはハンパじゃなく、最後

    レベッカ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 長いお別れ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー   ☆☆☆☆★ 高校生か大学生の頃に読んでそれきりだったので再読。当時は格ミステリ・ファンだったのであまり印象に残らなかったが、今読むとメチャメチャ沁みる。格ものには真似のできない芳醇さである。やはりチャンドラーは良い。 フィリップ・マーロウの名前を知らない人はあまりいないと思うが、例の「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている価値がない」のセリフで有名な探偵である。独身、四十代、一匹狼、大して金はないが誰にも媚びずに生きている男。 読めば分かるが、フィリップ・マーロウというのは男の理想形と言っていい。どこがどうそうなのか説明は難しいが、そうなのだ。昔読んだ何かのに、もっとハンサムな探偵もいる、もっと腕っ節の強い探偵もいる、もっと推理力のある探偵に至っては大勢いる、にもかかわらずフィリップ・マーロウはミステリを読む女性にとって永

    長いお別れ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 巫女 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『巫女』 ラーゲルクヴィスト   ☆☆☆☆☆ ラーゲルクヴィストという作家のを初めて読んだ。これもくろにゃんこさんのブログ記事を読んで興味をひかれた作家である。スウェーデンの作家でノーベル賞も取ったらしい。この人の作品タイトルを並べると『バラバ』『巫女』『刑吏』『こびと』『アハスヴェルスの死』など、キリスト教の香りが濃厚に漂ってくる。こういうのが決して嫌いではない私は、期待に胸を膨らませて『巫女』を読み始めた。結果、期待を裏切らない大傑作であった。 傑作だなんだと言う前に、まずすべてが私好みなのであった。文体は簡潔、物語は輪郭がくっきりしたプロットを持ち、構成はシンプル、謎とメタフィジクスがあり、ここぞというところで幻想的なエピソードが現れ、しかも人間的なドラマと葛藤がある。長すぎないのも良い。ついでに、ラーゲルクヴィストという名前も荘厳で良い。 メタフィジクスと言ったが、別に「人生いか

    巫女 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 月と六ペンス - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『月と六ペンス』 サマセット・モーム   ☆☆☆☆☆ 私は昔からこの小説が好きで、何度も再読している。モームという作家は大衆小説的だというような批判をされる人だが、この小説はその読みやすさ、ストーリーテラーの資質が文学的なテーマとうまいこと溶け合った傑作だと思う。 ストリクランドという画家の物語である。モームの分身である若手作家の視点で話は進んでいく。ストリクランドは40過ぎまで株式仲買人で、奥さんと子供がいるごく平凡な男だったが、ある日突然家出をしてパリに行く。みんなは女が出来て駆け落ちしたのだろうと考える。「私」が頼まれて連れ戻しに行くと、ストリクランドはボロボロのホテルに一人でいて、絵が描きたいから家庭を捨てたという。「私」は唖然として、奥さんや子供はどうなるとか、これまでの人生を棒に振ってもいいのかとか色々言うが、彼はまったく動じない。ストリクランドは極貧の中で絵を描き続け、やがて

    月と六ペンス - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • これから話す物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『これから話す物語』 セース・ノーテボーム   ☆☆☆☆☆ もう何度も読んでいるだが、また読みたくなって再読。内容がいいのはもちろんだが長さも手ごろなので、絶好の再読である。 まず、発想と小説的仕掛けの見事さにしびれる。主人公ミュセルトが目を覚ますと、昨日までアムステルダムにいたはずなのにリスボンのホテルに寝ている。果たして自分は生きているのか、死んでいるのか。ここから始まるミステリアスで愉悦的でしかも切ない物語は、やがて生と死の狭間の物語であることが分かってくる。なんとこれは、人が生から死へと移行するたった二秒間の物語なのである。 物語は二部構成になっているが、第一部が最初の一秒、そして第二部が二秒目だというから唸ってしまう。作者によれば一秒目は追憶に、二秒目はある存在の状態から別な状態へと移るときに必要な心の操作にあてられる、そうだ。物語の内容としては、第一部ではわりととりとめのな

    これから話す物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    "作者は「すべての大著の中には、そこから抜け出すのを待っている小さな本があると思わないか」とウンベルト・エーコに言ったそうだが、この本自身がまさにその最良の見本である"
  • 超男性 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『超男性』 アルフレッド・ジャリ   ☆☆☆☆☆ 白水Uブックス、澁澤龍彦訳である。昔買ってもう何度読み返したか分からないが、何度読んでも面白く、シュルレアリスムの良さを堪能できる。 ジャリは私の中ではボリス・ヴィアンと非常に近いところにいる作家で、ほぼ同時代の作家みたいなイメージがあったし、そもそもジャリはシュルレアリスムど真ん中ストライクの作家だと思っていたのだが、年代をチェックするとはるかに早い。ジャリが死んだのは1907年、この『超男性』が発表されたのは1902年。『シュルレアリスム宣言』は1924年、なんと20年も先行しているのである。信じられない。ちなみに『うたかたの日々』を書いたボリス・ヴィアンは1920年生まれ。 シュルレアリスムといっても重たく暗いものやら、残酷でエロティックなものやら、不気味なものやら天上的なものやら色々あるが、この『超男性』は軽やかでエスプリに満ちた、

    超男性 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • ターバンを巻いた娘 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『ターバンを巻いた娘』 マルタ・モラッツォーニ   ☆☆☆☆☆ イタリアの女流作家の短篇集。どう考えても傑作なのだが、現在絶版のようだ。私は随分と昔に購入し、たまにひっぱり出しては再読するということを繰り返している。 この人の短篇は独特だ。品と風格があって、エレガントで、芳醇で、ゆったりしていて、それでいてどことなく不安で、抽象的で、謎めいている。 ストーリーは大変おとなしい。手に汗握るような事件は別に起きない。登場人物の置かれた状況が淡々と綴られることで物語が成立している。しかしその淡々の中に微妙な不安感と、謎めいた雰囲気が入り混じっている。例えば最初の短篇『白いドア』。ある大音楽家(作中で名前は出ないがモーツァルトらしい)が大邸宅に招かれ、滞在している。クラヴィチェンバロつきの立派な離れをあてがわれ、世話係をつけられ、いたれりつくせりだ。ところが、仕事がはかどるようにという配慮からか、

    ターバンを巻いた娘 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 競売ナンバー49の叫び - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『競売ナンバー49の叫び』 トマス・ピンチョン  ☆☆☆☆☆ 大長編が多いピンチョンの、唯一手ごろな長さの長編。昔読んだことがあるが久しぶりに読みたくなって購入した。 ピンチョンの小説はいつも混沌としているが、書も例外ではない。カリフォルニアに住むエディパという女性が不動産王ピアス・インヴェラリティの遺言執行人に指名され、仕方なくサン・ナルシソ市に行って弁護士に会ったり書類を見たりしているうち、色んな偶然や暗合などによってトライステロという秘密結社の存在を知る。これはラッパのマークが目印の、中世の昔から存在する恐るべき私設郵便組織なのであった……。 という、冗談なのかまじめなのかよく分からないプロットである。ピンチョンというのは私が知っている限り、大体いつもそういう小説を書く。かなり奇妙な作家だ。そしてプロットはどんどん錯綜していく。エディパは元俳優のイケメン弁護士と不倫の関係を持ち、モ

    競売ナンバー49の叫び - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 『コスモス 他』 ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ/ブルーノ・シュルツ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『コスモス 他』 ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ/ブルーノ・シュルツ   ☆☆☆☆☆ ゴンブロヴィッチは『バカカイ』を読んだことがあったが、その猥雑、パワフル、ケイオティックな世界はなかなかユニークで印象的だったものの、すごく好みというわけでもなかった。書を購入したのは一緒に収録されているシュルツを読みたかったからだ。 収録されているのはシュルツの『肉桂色の店』『クレプシドラ・サナトリウム』、そしてゴンブロヴィッチの『コスモス』。これに訳者工藤幸雄の序『異端のポーランド文学 -非リアリズムの系譜-』と篠田一士『わたしの作品論』がついている。篠田一士の評論がついているのはもうけものだった。 さてシュルツの『肉桂色の店』、読み始めてまず気づくのは華麗な比喩にみちみちた精緻な文体である。マニエリスティックというか、修辞の森の中にようやく世界が見えてくるようなとても人工的、技巧的な文章を書く。そう

    『コスモス 他』 ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ/ブルーノ・シュルツ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • シュルツ全小説 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『シュルツ全小説』 ブルーノ・シュルツ   ☆☆☆☆☆ 前に『コスモス 他』で読んで驚嘆したブルーノ・シュルツ、単独名義の、しかも「全小説」とあれば買わないわけにはいかない。こういうものはすぐに絶版になるものと相場は決まっている。『コスモス 他』に収録されていた『クレプシドラ・サナトリウム』は13編のうち6編が欠けていたので、これでようやく全部読むことができる。 上下ニ段組だった『コスモス 他』に比べてこちらの方が字が大きく、読みやすい。訳者は同じ工藤幸雄氏なので翻訳文はほとんど同じだが、微妙に変えてある。しかし饒舌で華麗なレトリックがうねうね続く文体はあいかわらず独特だ。 『肉桂色の店』は全部既読だし、『砂時計サナトリウム』も半分は読んでいるが、こうして再読すると読み落とした部分とか新たな発見とかあって面白かった。しかしこの人の壮絶な超現実的小説世界の面白さはもう読んでもらう以外に説明の

    シュルツ全小説 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 最後の瞬間のすごく大きな変化 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『最後の瞬間のすごく大きな変化』 グレイス・ペイリー   ☆☆☆☆☆ アメリカの女流作家の短篇集を読了。訳者の村上春樹があとがきで絶賛している。「現存している中で、もっとも留保のない敬意を受けているアメリカ人作家の一人であると言って、間違いないと思う」「なぜ僕が訳すかという点については、『何はともあれ自分の手で訳さずにはいられなかったから』と答えるしかない」「グレイス・ペイリーの物語と文体には、いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなるという、不思議な中毒性があって、そのややこしさが、とにかくびりびりとやみつきになる」てな具合だ。ここまで褒められるとやはり読みたくなる。 実際読んでみて、同じ村上春樹が訳しているということもあるのかも知れないが、なんとなくレイモンド・カーヴァーを思い起こさせる。共通する部分は確かにある。離婚や親子関係など、ドメスティックなテーマを持っていること。人

    最後の瞬間のすごく大きな変化 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    「物語と文体には、いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなるという、不思議な中毒性があって、そのややこしさが、とにかくびりびりとやみつきになる」(村上春樹)
  • コレラの時代の愛 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    皆様、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。じゃ、さっそくいきます。 『コレラの時代の愛』 ガブリエル・ガルシア=マルケス   ☆☆☆☆☆ 遂に出た、マルケス流ラヴ・ストーリー『コレラの時代の愛』の日語訳。ああ長かったよ、長かった。待ちくたびれて一昨年の11月に英語訳で読んでしまったが、日語訳をゆるゆると読むのはまた格別である。それにしてもあれからもう一年以上たってしまったとは。月日のたつのは超はやい。 訳はラテンアメリカ文学ではおなじみの木村榮一氏だが、今回は英語訳をすでに読んでいることもあり、「あれ?ここんとこちょっとニュアンスが違うな」と感じた部分がところどころにあった。もちろん英語訳も原作とはまた違っている可能性があるわけで、やはり翻訳というのは奥が深い。『百年の孤独』や『族長の秋』を私は日語訳でしか知らないわけだが、原作を読むとまた違うんだろうなと

    コレラの時代の愛 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 犬の人生 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『犬の人生』 マーク・ストランド   ☆☆☆☆☆ アメリカの詩人ストランドの短篇集。訳は村上春樹。 私は村上春樹の小説の大部分は苦手だが、この人の翻訳は結構好きだ。レイモンド・カーヴァー全集は何冊か持っているし『バースデー・ストーリーズ』も良い。中でも極めつけに好きなのがこの『犬の人生』である。 何がそんなに好きなのか、箇条書きにしてみる。 1.簡潔で軽やかでエレガントな文体。簡潔な文体と言っても、ヘミングウェイの禁欲ハードボイルドタッチ、ブコウスキのぶっちゃけぶっきらぼうタッチ、パスカル・キニャールの古典的彫刻的タッチ、ホアン・ルルフォの灼熱黙示録的タッチ、などなど色々あるが、ストランドの簡潔さはストイックさよりも散文詩的な言葉のスピードから生まれてくるものだ。彼の文体はあるイメージから別のイメージへ非常にすばやく移動する。そのスピードと軽やかさが非常に心地よい。ただスピーディーなだけ

    犬の人生 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 隠し部屋を査察して - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『隠し部屋を査察して』 エリック・マコーマック   ☆☆☆☆☆ スコットランド生まれカナダ在住の作家、マコーマックの短篇集を読了。しかしまあ、なんというヘンな小説を書く人だろうか。綺想作家と呼ばれる人は色々いるが、この人ほどこの言葉が似合う作家もあまりいないと思う。 アメリカの「アンリアリズム」と称される最近の作家連中、例えばケリー・リンクやジュディ・バドニッツなんかもとんでもない非現実的な短篇を書くが、彼女達のアイデアがどこかパーソナルな感情や生理感覚と結びついていて、人間の内側にある何かを綺想に仮託して描いている感じがするのに対し、マコーマックの奇想はある意味ブッキッシュというか形而上学的、抽象的で、奇想そのものを面白がって手玉に取っているという、非常に遊戯的な感じがする。だから作品の印象は硬質で、乾いている。そういうところはボルヘスに似ていて、書にはボルヘスっぽい短篇も収録されてい

    隠し部屋を査察して - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    "綺想作家と呼ばれる人は色々いるが、この人ほどこの言葉が似合う作家もあまりいないと思う"
  • 見えない都市 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『見えない都市』 イタロ・カルヴィーノ   ☆☆☆☆☆ カルヴィーノの小説では『まっぷたつの子爵』とこの『見えない都市』が大好きだ。『まっぷたつの子爵』が童話的・物語的なのに対し、書は架空の幻想都市を次々と紹介するという陳列型小説で、透明感のある硬質の幻想やアレゴリーがダイヤモンドのように乱反射するきわめて完成度の高い幻想小説になっている。 マルコ・ポーロの『東方見聞録』の枠組みを借りているのでパロディといわれることもあるようだが、私はこれをパロディと呼ぶことには違和感がある。パロディには普通原典に対する風刺や揶揄があると思うが、この小説にはそういう不純なものは見当たらない。読んでみれば分かるが、非常に透明感のある審美的な小説である。そもそもが審美的、唯美主義的である幻想文学の中でも、ここまでピュアに審美的な小説は珍しいんじゃないかと思うくらい美しい作品だ。カルヴィーノはただ『東方見聞録

    見えない都市 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 三つの物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『三つの物語』 フローベール   ☆☆☆☆☆ 岩波文庫の絶版を古で入手。活字体も古いし、旧かなづかい。おまけに漢字も難しく、けっこう読めない。「いう」は「いふ」、「ほんとう」は「ほんたう」、「ように」は「やうに」。ページを開くとものすごい風格が漂う。読みづらいが、これはこれで雰囲気があって嫌いじゃない。 フローベール自身によって発表された最後のらしい。遺作の『ブーヴァールとペキュシェ』は未完となっている。解説によれば、この三つの物語こそ、その形式においても精神においても、この人の芸術・作品の完璧な総合であるといわれている、らしい。確かにそういわれるのも納得できる見事な出来だ。私は『ボヴァリー夫人』しか読んだことがなくて、今ひとつフローベールという作家のすごさが分からなかったが、このを読んでよく分かった。やはりフローベール、あのミラン・クンデラが絶賛するだけのことはある。 収録されて

    三つの物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • さくらんぼの性は - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『さくらんぼの性は』 ジャネット・ウィンターソン   ☆☆☆☆☆ 昔、冒頭ちょっと読んで中断していた小説。あらためて最初から読み直し、こんなにいい小説だったのかと驚いた。 基的に奇想天外な幻想小説である。ちょっとユーモラスな語り口はほら話的でもあり、御伽噺的なムードを漂わせている。主人公の一人である犬女は巨大な女だが、はかりに乗って象を空高くふっとばしてしまうなんてあたりは、ガルシア・マルケスあたりに通じるたくましい荒唐無稽さを感じる。その一方で、恋人達の言葉が幾千幾万の鳩になって飛んでいく、なんていう繊細で美しいイメージには、たとえばボリス・ヴィアンやジャリあたりの華麗なシュルレアリスムに近いものも感じる。いずれにしろ、誰かのフォロワーではない独自の想像力のきらめきを持っている作家さんだ。 全体を貫く明確なストーリーがないという、この緩さもまた魅力的だ。ジャネット・ウィンターソンは物語

    さくらんぼの性は - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • フリッカー、あるいは映画の魔 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『フリッカー、あるいは映画の魔』 セオドア・ローザック   ☆☆☆☆☆ 再読。何度読んでも面白い。これはもう、映画好きは絶対に読まなければならない小説であって、映画ファンのための『薔薇の名前』である。まして映画ファンであり小説ファンでもある私みたいな人間にとってはにマタタビ状態、脳からドーパミン出まくりになる至福の書と言っても過言ではない。 ストーリーをざっくりいうと、「ぼく」ことジョナサン・ゲイツはLAの名画座でマックス・キャッスルというマイナーな映画監督の映画に出会い、その魅力にとりつかれて散逸していたフィルムを追い求め、研究し、やがて映画学科の教授になり、しだいにキャッスル映画に秘められた恐ろしい秘密へと足を踏み入れていく。 書は基的には実在架空を問わずさまざまな映画に言及しつつ、映画にとりつかれた人間達のドラマを緻密に追いかけていく「映画命」な物語だが、一方で映画とヨハネ騎士

    フリッカー、あるいは映画の魔 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/16
    "何度読んでも面白い。これはもう、映画好きは絶対に読まなければならない小説であって、映画ファンのための『薔薇の名前』である。脳からドーパミン出まくりになる至福の書と言っても過言ではない"