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ブックマーク / speeressplitter.hatenablog.com (22)

  • 哀れなるものたち/アラスター・グレイ - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット) 作者: アラスター・グレイ,高橋和久出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/01/26メディア: 単行(ソフトカバー) クリック: 44回この商品を含むブログ (36件) を見る 小説家アラスター・グレイが入手した古書『スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話』には、19世紀後半にの医師の自伝という体裁を整えていた。だがその内容たるや……。著者の親友である医学者が、身投げした若い美女の肉体を救うべく、彼女の赤ん坊の脳を移植するという奇跡的な手術をしたというのだ。著者はその蘇生した美女に恋をし、結婚を申し込むが……。膨大な資料を検証した結果、アラスター・グレイはこの書物の内容が真実であると確信し、出版を決意したという。 『ラナーク』同様、終局的には《愛》を扱う物語である。一人(?)の女を巡る物語なのだから、より

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  • フリオ・コルタサル/悪魔の涎・追い求める男 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫) 作者: コルタサル,木村栄一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1992/07/16メディア: 文庫購入: 12人 クリック: 83回この商品を含むブログ (62件) を見る アルゼンチンに生まれ、フランスに没した作家の、短編10編を収めている。普通小説と言い得るのは「追い求める男」のみで、他は超現実的な話が並ぶ。作家が伝えたい確固たる何かがあって、それを一気に伝える――といったタイプの小説ではない。展開がシュールであるか否かを問わず、作家はさながらホロスコープのように作品の局面を変え、雰囲気も変え、読者を物語自体・小説自体でもって幻惑する。それを快いと感じる層には、書は素晴らしい作品と映るだろう。なお、集中最長の「追い求める男」はちょうど真ん中に配置され、一冊のとして書のバランスに貢献している。乱暴に言えば、その前

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  • ラナーク/アラスター・グレイ - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    ラナーク―四巻からなる伝記 作者: アラスターグレイ,Alasdair Gray,森慎一郎出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2007/11/01メディア: 単行購入: 1人 クリック: 42回この商品を含むブログ (29件) を見る 記憶を持たない青年ラナークは、都市アンサンクで友人を持ち、恋をする。だがやがて肌が角質化して竜になるという奇病と、うまく行かない恋愛に悩まされ、謎の口唇に呑み込まれて奇妙な施設に収容されてしまう。そこで《お告げ》の声は、ラナークに、彼がダンカン・ソーという人物であったと教え、スコットランドに住んでいたこの画家志望の少年のことを語り始めるのだった……。 二段組700ページを超える大長編である。四巻から成り、三・一・二・四の順番で並べられる。第一・二巻は、ダンカン・ソーの物語であり私小説の色が濃く、アラスター・グレイの実体験がある程度反映または仮託されてい

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  • 海底牧場/アーサー・C・クラーク - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    海底牧場 (ハヤカワ文庫SF) 作者: アーサー・C.クラーク,Arthur C. Clarke,高橋泰邦出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/09/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 56回この商品を含むブログ (39件) を見る 21世紀、世界連邦料機構は、鯨を海で放牧して、人類の料の1割を賄っていた。その海底牧場で鯨を管理する一等監視員ドン・バーリーは、新人のウォルター・フランクリンの指導を任される。しかしどうやらウォルターには過去があるようで……。 カウボーイならぬホエールボーイの一代記である。複数のエピソード(時代も年単位で飛ぶ)が連なって一つの長編を構成しているが、牧鯨にまつわる話であることは一貫している。鯨類という巨大な動物が遊泳する海の光景は実に鮮やかで、イメージ喚起力が半端ではない。まさにクラークの真骨頂を見る思いだが、もちろんそれだけではなく、

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  • セバスチャン・ナイトの真実の生涯/ウラジーミル・ナボコフ : 不壊の槍は折られましたが、何か?

    セバスチャン・ナイトの真実の生涯 (講談社文芸文庫) 作者: ウラジミール・ナボコフ,富士川義之出版社/メーカー: 講談社発売日: 1999/07/09メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 32回この商品を含むブログ (41件) を見る わずか数冊の作品を発表して亡くなった小説家、セバスチャン・ナイト。彼の腹違いの弟Vは、兄の伝記を書くため、足跡を辿り始める。『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』は、その伝記であるとの体裁をとる。 素晴らしい。ただただその一言に尽きる。セバスチャンの像が徐々に立ち上がる様も圧巻だが、それ以上に、弟の兄に対するリスペクトが話が進むにつれ迫真性を備えてくるのが印象的。そして《真実》とやらは解明されない。セバスチャンの人生に関する様々な事柄、そしてそれらに対する弟Vの、兄セバスチャンの人格把握に基づきつつも、結局は各論的な想念。繰り返されるセバスチャンの小説*

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  • ロリータ/ウラジーミル・ナボコフ : 不壊の槍は折られましたが、何か?

    ロリータ 作者: ウラジーミルナボコフ,Vladimir Nabokov,若島正出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/11メディア: 単行購入: 1人 クリック: 107回この商品を含むブログ (51件) を見る 主人公ハンバート・ハンバートによる一人称だが、これがもう当に素晴らしい。異様に饒舌なその語り口は、一種の空転や虚無を自覚的に抱え込み、そしてロリータ/ニンフェットを求める痛切な情感*1を湛え、破滅への驀進を、読者の胸に迫りかねない勢いをもって、如実に表す。ロリコンと聞いた場合に大多数の人間が想像する類のキモヲタ的雰囲気など、ここには微塵もない。あるのはただただ、ナボコフの手による圧倒的に絢爛たる文章表現の迷宮であり、深読みするとジーン・ウルフ並みに大変なことになりかねない、重層的構造を抱えている可能性さえある物語なのだ。 ロリコンの語源という《話題》や《予断》など、蛆

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  • エヴリブレス/瀬名秀明 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    エヴリブレス 作者: 瀬名秀明出版社/メーカー: TOKYO FM出版発売日: 2008/03/14メディア: 単行購入: 1人 クリック: 113回この商品を含むブログ (16件) を見る 少年少女だった頃、お互いに好き合いながら想いを伝えず、別々の道を歩み始めた二人。その少女はやがて金融業会に進み、数理分析の専門家=クオンツとして活躍を始めた。彼女・杏子は、そんなある日、ネットワーク上の仮想世界BREATHにアクセスし、作法どおり自分の分身を作る……。やがて時は流れ、遂には杏子の孫の世代まで登場し、杏子の思いは世界に意外な展開をもたらしていく。 自他共に認めるクレバーな作家が、いくらでも掘り下げられる要素を多数並べて、しかし敢えていずれにも踏み込まず、全てをなだらかに繋ぎ合わせている。個々のテーマに拘泥せず、主人公の人生および未来社会に関し、包括的ランドスケープをソフトかつ緩やかに提

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  • 完全恋愛/牧薩次 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    完全恋愛 作者: 牧薩次出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2008/01/31メディア: 単行購入: 2人 クリック: 48回この商品を含むブログ (76件) を見る 洋画界の巨匠・柳楽糺(名:庄究)は、幼い頃、空襲で両親と妹を亡くし、福島県の温泉村にある伯父が経営する旅館に引き取られた。そこで下働きをするうち、究は少女・小仏朋音に出会う。彼女こそ、旅館に下宿する画家・小仏榊の一人娘であり、究が生涯をかけて愛する女性となるのであった……。 他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ では 他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか? 最初に断言しておこう。書は、推理文壇の大御所が齢七十五にして書いた、著者の新たな代表作である。「牧薩次」というのはその大御所の別名義に過ぎない。 この大御所は、事と次第によってはメタ性を前面に出すことも厭わない作風を持つ。し

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  • 司政官 全短編/眉村卓 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    司政官 全短編 (創元SF文庫) 作者: 眉村卓出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2008/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 42回この商品を含むブログ (41件) を見る 遠未来、星々に進出した人類であったが、ワープ航法の技術的限界により連邦軍による侵攻が鈍るのと時を同じくして、植民惑星での連邦軍の統治は原住異種族・植民者の反感を買い、様々な軋轢を生じ始めた。そこで連邦経営機構は新たな制度を生み出す。それが《司政官》である。彼らは官僚ロボットの大群を引き連れて、軍の代わりにその惑星の統治を担い、異種族の文明化や植民社会の発展を図るのだ。しかし時の経過と共に、この《司政官》制度も次第に変化する……。 背景こそこのように壮大だが、各短編は「一つの惑星」で「一人の司政官」が「任期内のある数日間」に「その惑星でのトラブル」に対応する様を描くことに終始している*1。原住種族との、

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  • 新世界より/貴志祐介 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    新世界より (上) 作者: 貴志祐介出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/01/24メディア: 単行購入: 7人 クリック: 445回この商品を含むブログ (254件) を見る新世界より (下) 作者: 貴志祐介出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/01/24メディア: 単行購入: 4人 クリック: 109回この商品を含むブログ (173件) を見る 1000年後の日。子供たちは大人になるため「呪力」*1を得なければならなかった。一見のどかに見える町の学校で、子供たちは徹底的な管理を施されていたのである。そんな学校に通う早季らは、ある日、古代文明の遺産と思しき《ミノシロモドキ》(正体は恐らく図書館の端末)に遭遇し……。 上下巻で計1000ページあるが、長さを気にせずサクサク読める。このリーダビリティの高さは特筆ものだろう。SFということで身構える人もいるかも知れないが

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    inmymemory 2008/01/28
    早くも今年度のベスト候補が登場した
  • 夏の涯ての島/イアン・R・マクラウド - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ) 作者: イアン R.マクラウド,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/01/09メディア: 単行購入: 1人 クリック: 54回この商品を含むブログ (46件) を見る 実に静かな筆致が印象的なSF短編集である。叙情系SFとまでは断言しきれないが、構築した《架空の世界》の解説よりも、そこで繰り広げられる人生模様を濃やかに描くことに焦点が合わされる。畢竟、エンターテインメントとしては地味な印象が先行することになろう。だがこれもまた素晴らしいものなのである。 各登場人物の心理は直接言及されて説明されるわけではない。情景やちょっとした行動から読者に推測させる手法が採用されている。人間ドラマに一応の起承転結がある物語が大半を占めるため、登場人物がどのような結論的アクションを起こしたかが最後にはわかるので、ここから遡って各場面での心情を推

    夏の涯ての島/イアン・R・マクラウド - 不壊の槍は折られましたが、何か?
  • 不壊の槍は折られましたが、何か? - コスミック・レイプ/シオドア・スタージョン

    憎悪と憤怒でその内面を形成している浮浪者ガーリックは、ある日、ゴミ箱から拾ったハンバーガーを口にした。だがそれに使用されていた馬肉には、宇宙の彼方から飛来して来た超生命体・メドゥーサが含まれていた。メドゥーサは、種族で集合意識を保有していない人類という種に驚愕し、ガーリックの脳に語りかけ使役し、人類に共同意識を形成させ、然る後人類という種を乗っ取ろうとする……。 以上の《筋》が割合としては半分を占め、合間に、他の地球人類数組のエピソードが様々に挟まれる。この《エピソードの並列》は、人類の意識は個々人でてんでバラバラであるという当たり前の事実をしっかり示す役割を担っており、集合意識の顕現以降彼らの言動が明瞭に変化しているという点で、ストーリーの転換点を明瞭に打ち出している。もちろん、書でスタージョンが描く集合意識の何たるかを個別具体的に表現する手段にもなっている。 ここで注目したいのは、

    不壊の槍は折られましたが、何か? - コスミック・レイプ/シオドア・スタージョン
  • アプターの宝石/サミュエル・R・ディレイニー - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    レプターに住む詩人ジオと大男アースンは、四腕の少年泥棒スネークに出会う。世界にはこういった奇形の人間も結構いるのだ。そしてこの三名は白き女神アーゴの化身の母親を名乗る司祭に出会い、敵国とされる謎に包まれたアプターへ向かうことになる。白き女神アーゴの化身(つまり司祭の娘)はアプターに誘拐されていた。彼女はジオ・アースン・スネークに、アプターの宝石を奪い、娘を取り戻そうとして航海に出る……。 舞台は恐らく遠未来の地球で、核戦争で文明が一時衰退し、また少しずつ回復しつつある。これを背景に、「善悪とは立場によって変わるものだ」という、掴み所があやふやなテーマが、波乱万丈の冒険物語に乗せられ、絢爛たる文章表現に彩られて展開する。 某所で法月綸太郎『密閉教室』が中二病であるとの指摘を目にしたのだが、高校生が高校を舞台に(リアルで聞いていると)恥ずかしい言動をとる程度の『密閉教室』で中二病と言っている

    アプターの宝石/サミュエル・R・ディレイニー - 不壊の槍は折られましたが、何か?
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    inmymemory 2008/01/18
    荘重にして圧倒的に華麗・象徴的な文章表現が全てのマイナスを吹き飛ばしかけている。本書の魅力はここにある
  • 幻詩狩り/川又千秋 : 不壊の槍は折られましたが、何か?

    幻詩狩り (創元SF文庫) 作者: 川又千秋出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/05メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (46件) を見る 1948年のパリで、シュルレアリスムの詩人アンドレ・ブルトンが詩人の卵フー・メイに出会う。フーが持ち込んだ詩のは、読む者を異界に導くほどの、この世の物とは思われぬ圧倒的な力に満ちていた。更にフーは時間を主題とした詩を書いたと言う……。数十年後、昭和末期の日で彼の詩は猛威を振るうことに。 視点人物は多数用意されるものの、詩に触れたことによって個々人が破滅すること自体は悉く間接的に描かれる。最終の視点人物の顛末がその《破滅》の実態なのかも知れないが、ここでは触れないでおこう。いずれにせよ、作者は視点人物に寄り添って物語を組み立てておらず、必然的に彼ら個々人の悲喜劇にもほとんど興味がない。作者はあくまで神の視点

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    inmymemory 2008/01/05
    フー・メイ 「鏡」「時の黄金」「異界」を本当に探したくなった。 cf.http://www.asahi-net.or.jp/~sy6y-szk/sf/fictitious_book_in_sf.txt
  • 山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    山口雅也の格ミステリ・アンソロジー (角川文庫) 作者: 山口雅也出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2007/12メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 90回この商品を含むブログ (30件) を見る 山口雅也による初のアンソロジーとなる。 とにかく全作品が圧倒的にこてこてで、山口雅也が自身の《嗜好》の精髄を嘗め尽くしているかのようだ。彼の諸作のように、格の何らかの構成要素に特異または異常なエフェクトを効かせた作品が大半を占めるが、その《こだわり》のマニアックさといったらない。ほとんどパラノイアの領域にさえ達している。 たとえば冒頭のジェイムズ・パウエル「道化の町」からして、住民全員(もちろん警察も!)が道化であるという町が舞台なのだから尋常ではない。しかも雰囲気は予想に反して、退廃的で悪夢めいてすらいるのだ。続く坂口安吾「ああ無情」も、淡々と見せかけて異様に情報密度の高い文章に

    山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー - 不壊の槍は折られましたが、何か?
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    inmymemory 2008/01/04
    「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」「法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー」
  • マンハッタン・オプ?/矢作俊彦 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    マンハッタン・オプI (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3) 作者: 矢作俊彦出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ発売日: 2007/10/18メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (19件) を見る 解説の坪内祐三によると、酒席においてではあるが、矢作俊彦はハードボイルドは言葉、文章が全てという認識を有しているらしい。わずか300ページちょっとの間に17編もの短編を収録している書は、そのテーゼを体現した一冊であり、シリーズであるといえよう。 一人称小説である。主人公は名前が一切明らかにされない。全編がミステリではあるのだが、格ミステリめいた推理や構造はなく、主人公はただただ依頼人たちが巻き込まれた事件の真相を解き明かしていく。そこには同情や感傷があるものの、そのような感情を小説にベタ塗りすることは注意深く避けられている。行間から零れ出るもの、それはニューヨークと

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    inmymemory 2007/12/17
    矢作俊彦ほどの強度を誇るハードボイルドは、正直ハメット、チャンドラー、原りょうの3名しか思い付けない
  • ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎 - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    ゴールデンスランバー 作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/11/29メディア: ハードカバー購入: 12人 クリック: 551回この商品を含むブログ (766件) を見る 国民的人気を誇る若き宰相・金田は、仙台で凱旋パレードの最中、暗殺されてしまう。その容疑者として浮上したのは青柳雅春。2年前、暴漢に襲われていたアイドルを助けてワイドショーのネタになった宅配便ドライバーであった。当時の彼は見るからに好青年であったのだが……。そして青柳雅春の必死の逃走劇が始まる。 伊坂幸太郎の集大成にして最高傑作の登場である。 まず指を折るべきは伏線回収である。書は作品内の事件の全てが解き明かされるタイプの作品ではないが、代わりに、細かいエピソードが後半どんどん回収されていき、首相暗殺犯と目された男の逃走劇を綺麗にまとめるのである。それが後ろに繋がるような伏線として使われるとは

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    inmymemory 2007/12/05
    伊坂幸太郎の集大成にして最高傑作←たしかに
  • と[ワジェット]とボフ/シオドア・スタージョン - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    [ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (奇想コレクション) 作者: シオドアスタージョン,若島正,Theodore Sturgeon出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/11メディア: 単行購入: 1人 クリック: 63回この商品を含むブログ (44件) を見る 若島正編のスタージョン短編集。全6作収録だが、『海を失った男』に比べてすら、若島が更に強くお堅い文学趣味を見せ付けている。読み口が晦渋な作品が揃っており、ゆえに、娯楽小説作家としてのスタージョンに触れたい読者には少々ハードかもしれない。何が起きているかではなく、何が描かれているかが問題になる作品が多いので、キャラの心の動きを見据えておかねば置いてけぼりにされる恐れがあり、集中を強いられよう。とはいえ、スタージョンが人間心理に注ぐ視線は鋭く、描出が簡にして要を極めているので、致命的に読みにくいとまでは言えない。 「

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  • 悪魔の薔薇/タニス・リー - 不壊の槍は折られましたが、何か?

    悪魔の薔薇 (奇想コレクション) 作者: タニスリー,Tanith Lee,安野玲,市田泉出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/09メディア: 単行購入: 3人 クリック: 19回この商品を含むブログ (40件) を見る 恥ずかしながらタニス・リー初体験。前半は幻想的な要素が勝った作品が多いけれど、徐々に通常の《御伽草子》に近くなって来る印象がある。ストーリー展開を追いたい読者に受けるのは後半の諸作かも。ただし筆致の流麗さ(濃厚!)では前半が勝る。いずれを取るかは人それぞれ、私個人は後半により強く惹かれつつも、前半もまた素晴らしいと思う。時間ができたら(できるのか?)この作家を更に読んでみたい。 「別離」は、女吸血鬼と彼女に長年仕えてきた老人の別離を描く。寿命が近い老人(吸血鬼によってパワーアップはしているのだが)は後任となる若者を連れて来て、代替わりを静かに受け容れる。内

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  • 不壊の槍は折られましたが、何か? - ハローサマー、グッドバイ/マイクル・コニイ

    ヒューマノイド型異星人(とりあえず人間だと思って読んで問題なし)が19世紀末と概ね同水準の文明を築いている、ある惑星。政府官僚を父に持つ少年ドローヴは、休暇を過ごすため両親と共に、首都から港町パラクーシを再訪する。ドローヴが想いを寄せる少女ブラウンアイズは更に美しく成長していた。二人は、同じく政府官僚を父に持つ少年ウルフ、ブラウンアイズの友人リボン、を交えて遊ぶが、折からの敵国アスタとの戦争が、やがてパラクーシにも暗い濃い影を投げかける……。 やっと読めたサンリオSF文庫の名高い作品。ドローヴとブラウンアイズの恋愛、仲間たちとの交流、ドローヴと両親の確執、町の住民との衝突といった人間ドラマ的な側面が、抑えた筆致で、静かに描出されてゆく。このえも言われぬ情感は、当に何ともいえない香気に満ち溢れている。 舞台となる惑星の自然描写も秀逸だ。地球に似た風景だが、点在する違う部分が実に美しい。 と

    不壊の槍は折られましたが、何か? - ハローサマー、グッドバイ/マイクル・コニイ
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    inmymemory 2007/11/04
    サンリオSF文庫の名高い作品