赤ちゃんが毎日飲むミルクに、猛毒のヒ素が混入していたら―。そんな恐ろしい出来事が高度経済成長期の日本で実際に起きた。「戦後最大の食品中毒」とされる森永ヒ素ミルク中毒事件だ。事件発生から67年がたった今年5月、被害者の女性(68)=大阪市=が、今もなお悪化する症状によって人間らしく生きる権利を奪われたとして、ミルクを製造した森永乳業に5500万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。なぜ長年の沈黙を破り、司法の場で責任を問うことを決断したのだろうか。「もしヒ素入りミルクを飲んでいなかったら、私にはどんな人生があったのだろう」。女性は重い口を開き、語り出した。(共同通信=助川尭史、八島研悟、須賀達也) ▽赤ちゃんに謎の「奇病」惨事をまねいた犯人 まず事件について振り返ってみたい。