現代文学の描く景色がいつからか霞んで見える世代にとって、本書『日本の同時代小説』(岩波新書)は格好の虫眼鏡であり、鳥瞰図ではないか。純文学だけでなく、エンタメ、ノンフィクションも俎上に乗せてこの半世紀をたどる本書には、驚異的な数の作家が登場する。巻末一覧によれば、坪内逍遥から若杉冽まで実に約350人。その作品を時代背景とともに読み解く文芸評論家の著者・斎藤美奈子氏の評は、簡潔で小気味いい。 例えば、『太陽の季節』(石原慎太郎)は「小生意気な遊び人の高校生を描いた不良小説」、『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一)は「純愛と難病が好きなケータイ小説の高級バージョン」、『火花』(又吉直樹)は「往年の私小説に近い自虐的なタワケ自慢と貧乏自慢」という按配だ。 著者は自分の生きている時代の性格を知りたいという思いに従い、年代別に作品を紹介していく。以下、大ざっぱな時代区分で見ていくと、まず1960年