自殺のことを書くのはつらい。 どうしても、主治医としてかかわったのに自殺を防げなかった患者さんたちのことを思いだしてしまう。偉そうに、分かったような顔をして「こうすれば自殺を防げる」といった書き方をする気には、とてもなれない。 自殺が起きてしまったら…… 日本における代表的な自殺研究者である高橋祥友は、『自殺のポストベンション 遺された人々の心のケア』の中で、「既遂自殺や未遂自殺が1件生じると、その家族、友人の最低5人は深刻な心理的影響を受ける」と述べている。 さて、警察庁によると平成28年の日本における自殺既遂者が21897人だった(「平成28年中における自殺の状況」)。自殺未遂者は少なく見積もって自殺既遂者の10倍は存在すると考えられる。大ざっぱな計算だが、22000人×(10+1)×5で121万人ほどの人が、平成28年中に身近な人の自殺に関連した行動で心に強い衝撃を受けたと予想される