タグ

ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (28)

  • 「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』

    歴史の面白さは、つながる快感にある。 知っていることと知らないことがつながるとき、強く快を感じる。歴史研究から得られた知識と、映画やニュースで感動した経験が接続されるとき、「エウレカ!」と叫びたくなる。 『驚きの世界史』は、こうした経験と知識を繋げてくれる。 「漢族」は人工的な民族集団 いちばん驚いたのが、漢族という概念だ。 書によると、中国人の91%が漢族で、残りの9%が55の少数民族に分かれる。9割以上が同一の民族というのは、大きすぎやしないか? 北京語と広東語は英語とイタリア語ぐらい違うと言われるし、文化や風習もまるで別物なのに、漢族で括られる。 では、そもそも漢族とは何か? この解説が面白い。漢族とは、特定の文化や言語、風習、外貌とは関係がなく、長い歴史的過程を経て、様々な民族集団が政治的に統合された人工的な集団だという。そして、その核となるものが、「中華」という世界観になる

    「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』
    karatte
    karatte 2020/01/19
    「「漢族」は人工的な民族集団」「発射装置としてのピラミッド」「キリスト教徒は狂信者?」
  • ネタバレについて哲学者がガチバトルする「ネタバレのデザイン」

    ネタバレは悪という人は、作品から得られる楽しみが減ってしまうからだという。作品を堪能する前に、結末が分かったら、面白くないでしょ? 2018年に南極で起きた殺人未遂の動機は、読んでるのネタバレをされたからだという[参考]。 一方、ネタバレ許容派は、「作品の理解が進む」とか「ハラハラせず安心して楽しめる」という。「野外コンサートでいつ花火が上がるか」知らずにトイレに行っていたという具体的な例が出てくる。 このように、ネタバレをめぐる様々な主張は、各人の芸術観や価値観により変わってくることが分かる。 こうした背景を受け、日を代表する哲学者が、ネタバレについてロジックで殴りあう。リング外の観客も、のんびり見てられない。マイクを放られて、「言いたいことあるでしょ?」と煽られる。恐怖の前置き「素人質問で恐縮ですが」から始まる素人離れした知識に震える。 前回の議論は[「ネタバレの美学」が最高に面白

    ネタバレについて哲学者がガチバトルする「ネタバレのデザイン」
    karatte
    karatte 2019/07/14
    ミステリ界屈指の哲学者・笠井潔御大はネタバレも厭わない(というより解説の整合性を保つためならむしろネタバレすべき)というスタンス
  • 『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇』はスゴ本

    ウィトゲンシュタインののなかで、これが最も分かりやすい&面白い(当社比)。 数学という存在を、人の知性の産物である「発明」と捉える人がいる。いっぽうで、人が見出した世界の質である「発見」と見なす人がいる。この議論は、[『神は数学者か』はスゴ]にて語ったが、いずれの場合にせよ、数学の限界が(仮に)あるとしたならば、それは人の理性の限界であることは了解していただけるだろう。なぜなら、「発明」であれ「発見」であれ、主語が人である限り、その限界も人に属するからである。 ウィトゲンシュタインの講義は、数学の限界を見極める一方で、数学の底(もともとの了解事項)を明らかにしてくれる。 数学の底? そんなのユークリッド幾何学やヒルベルトの基礎付けを見るまでもなく、「定義」と「形式」でしょうに(あるいはそこから定義づけられる公理系といってもいい)。書を手にするまでは、そう考えていた。だが、「発明」で

    『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇』はスゴ本
    karatte
    karatte 2018/02/18
    論理哲学論考しか読んだことないけど、これは興味深い。哲学探究より面白そう。
  • メタファーから解く時間論『時間の言語学』

    時間とは何か? 言語学からの腑に落ちる解答。「時間」について思考の奥底で抱いていた認識が暴かれる一冊。 アウグスティヌスは、この問題の質を端的に語る。「時間とは何か。人に問われなければわかっているが、いざ問われると答えられない」。「時間論」といえば、これまで物理学や天文学、哲学や心理学、社会学からのアプローチがあった。それぞれの分野での見解はあるのだが、著者はこれに疑義を呈する。 つまりこうだ。どの学問領域であれ、時間の「流れ」や「進行」を口にしながら、その方向を当然のように過去から未来へと想定している。ビックバンをはじめとして、時間の「矢」は未来へと向かっている―――ここから疑い始めている。そして、「時間とは何か」に直接答えるのではなく、「時間をどのようなものとして捉えているか」という観点から、時間の質に迫る。 著者はレトリックを専門とする言語学者。日語と英語の豊富な事例を駆使しな

    メタファーから解く時間論『時間の言語学』
    karatte
    karatte 2017/04/10
    "「時間とは何か」に直接答えるのではなく、「時間をどのようなものとして捉えているか」という観点から、時間の本質に迫る"
  • 巨人の肩から眺める『現代思想史入門』

    ガルシア=マルケス『百年の孤独』で、数学だけに異様な興味を示す天才が出てくる。まともな教育を受けたこともなく、あらゆる文明から遠く離れた廃屋に一人で暮らし、すべての情熱を数学に注ぎ込み、一生をかけて二次方程式の解法を独力で見つけだす。 男は天才だが、愚かなことだと思う。ただ一人の思考だけで、まったくのゼロから、二次方程式の解の公式を導くまで才能を持っているにもかかわらず、それだけで一生を費やしてしまったのだから。男は幸せだっただろうが、もし教育を受けていたならば、その思考はさらに先の、もっと別ところへ費やすことができただろうに。 「こんなこと考えるのは私だけだ!」と叫びたくなるとき、このエピソードを思い出す。オリジナルなんて存在せず、要は順列組み合せ。デカルトやサルトルといった哲学者でさえも、完全に無から生み出したわけではなく、時代の空気に合わせ、過去の知的遺産をまとめたり噛み砕いた、知の

    巨人の肩から眺める『現代思想史入門』
    karatte
    karatte 2016/07/20
    "このテの話によくある、「近代vsポストモダン」や「自由vs逃走」など、時代や制度の同一性に基づき、対立を見いだすことそれ自体が近代的発想なのだと指摘する"
  • 『ヒストリエ』を10倍楽しく読む方法

    過去は確定してるから、あらゆる歴史はネタバレである。だが、「なぜそうなったのか」は時代によって違う。あるいは為政者の都合で改変される。 史家も人の子、自分が生きている時代の風潮というか要請に従い、歴史を書き直す。ネタは割れているのだが、その解釈が変わる。そういう意味では、あらゆる歴史はネタ割れである。ある事実が、それぞれの時代でどのように解釈されてきたかを辿ることにより、その時代が浮き彫りになる。 岩明均『ヒストリエ』は、アレクサンドロス大王を描いた傑作漫画(彼に仕えたエウメネスを主役にしているのがミソ)。未読なら強くオススメする「四の五の言わず、黙って読め」と。ただし、連載ペースがゆっくりしているため、「続きが読みたい病」に罹ること必至。ここでは、そんな患者の方々に、『ヒストリエ』を10倍楽しむための一冊『興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話』をご紹介。 神か魔物か伝説か、毀誉褒貶

    『ヒストリエ』を10倍楽しく読む方法
    karatte
    karatte 2014/06/15
    "アンドレア「英雄のいない国は不幸だ!」   ガリレイ「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ」"
  • ウィトゲンシュタインの読み方『哲学探究』入門

    ウィトゲンシュタインを読むのは、認識の仕様が知りたいから。 中二病の宿題を終わらせる『論理哲学論考』で、彼がやりたいことを知った。日常言語を用いる限り、数学のように論理を引き出して直接扱うことは難しい。だから、せめて「ここまでは語り得ますよ」という限界を示すのだ。そして、言語の誤謬を避けるため、厳密に論理的なシンタックスに則った記号言語を構築してゆく。 これをリバースエンジニアリングすると、認識のモデリングになるのではないか、というのがわたしは目論み。人であれAIであれ、知性はどんなやり方で(自分も含めた)世界を理解しているのかが分かれば、すなわち意識とは何か、そして「私とは何か」に近づけるんじゃないかと。アフォーダンスや数学、認知科学の近辺をウロウロ読んでいる動機は、これなのだ。 ただし、『論考』のプロセスの論理学は厳密だ。完全な純粋さを目指すあまりとっかかりがない。plainすぎて摩擦

    ウィトゲンシュタインの読み方『哲学探究』入門
    karatte
    karatte 2014/06/09
    ×探求 ○探究
  • 『ゲーデル、エッシャー、バッハ』はスゴ本

    一生モノの一冊。 「スゴ=すごい」の何が凄いのかというと、読んだ目が変わってしまうところ。つまり、読前と読後で世界が変わってしまうほどのこそが、スゴになる。もちろん世界は変わっちゃいない、それを眺めるわたしが、まるで異なる自分になっていることに気づかされるのだ。 『GEB(Godel, Escher, Bach)』は、天才が知を徹底的に遊んだスゴ。不完全性定理のゲーデル、騙し絵のエッシャー、音楽の父バッハの業績を"自己言及"のキーワードとメタファーで縫い合わせ、数学、アート、音楽、禅、人工知能、認知科学、言語学、分子生物学を横断しつつ、科学と哲学と芸術のエンターテイメントに昇華させている。 ざっくりまとめてしまうと、書のエッセンスは、エッシャーの『描く手』に現れる。右手が左手を、左手が右手を描いている絵だ。「手」の次元で見たとき、どちらが描く方で、どちらが描かれている方なのか、

    『ゲーデル、エッシャー、バッハ』はスゴ本
    karatte
    karatte 2014/05/12
    いずれ再読しようと思いつつ、なかなかできずにいる一冊。初読時に理解できなかった箇所も今なら消化できるはずなのだが。柳瀬尚紀先生の超絶アクロバットも堪能したいので。
  • 『時間ループ物語論』はスゴ本

    古今東西の時間ループ物語を題材として、現代日を生きる人々が抱く価値観、人生観へ肉薄する佳作。十年前のテキストサイトでよく見かけたオタ的論述スタイルが、暑苦しく膨大に展開されており、懐かしくも愉快な読書と相成った。 うる星やつら『ビューティフルドリーマー』や、涼宮ハルヒ『エンドレス・エイト』といったアニメから、ゲーテ『ファウスト』、落語『芝浜』、漱石『それから』、果ては浦島太郎伝説を俎上に乗せ、定義、掘り下げ、類型化、普遍化し、物語の根っこである「願望充足」「カタルシス」にまで至る。 アニメ、映画小説、古典、神話……膨大な作品を次々と挙げ、脱線に次ぐ脱線を繰り返しながら語られてゆく、著者独特の「読み」の過程や考察がめっぽう面白い。リアルタイムでエヴァ論を読み重ねてきた人にとって、「時間ループ」はたまらない材になるだろう。 たとえば、若返り譚も含めると、ループ物語は古代から前史があったと

    『時間ループ物語論』はスゴ本
    karatte
    karatte 2013/01/26
    ルーピー?
  • 「バベルの図書館」はスゴ本

    ボルヘスが編んだ傑作集。どいつもこいつも、すばらしい。 「バベルの図書館」は、ボルヘスが描いた架空の図書館だ。六角形の閲覧室が上下に際限なく続き、古今東西過去未来、世の全てのが収められているという。ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」に出てくる文書館がイメージの助けとなるだろう。 自分が作り出した「バベルの図書館」と同じ名で、ボルヘスは全30巻の叢書シリーズを編さんした。もうン十年も前のことだ。ボルヘス好みの、幻想と悲哀の入り混じった寓話で、今ではマニア垂涎の的となっている。これを6巻に再構成したのが、新編「バベルの図書館」だ。分厚く、箱入りの「よりぬきバベルの図書館」は、ちょっとした百科事典のように見える。 今回はアメリカ編。ホーソーン、ポー、ロンドン、ジェイムズ、メルヴィル…嬉しいことに、ほとんど未読の作品ばかり。噂だけ、タイトルだけは知ってはいたが手を出していなかったことを悔やみつつ、

    「バベルの図書館」はスゴ本
    karatte
    karatte 2012/10/26
    ポーとボルヘス自選の二冊しか持ってないが、これも気になる
  • ボルヘス好き必読「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」

    さらりと読んで後悔、極上のケーキを一口でべてしまった。 なので、これを読む方はよく味わってほしい。【ボルヘス級】といえば分かってもらえるだろうか。3つの短篇を編んだ、とても薄い、極上の奇譚集だ。読むのがもったいないくらい。 簡潔な文体で異様な世界を描く作風は、ボルヘスやコルタサルを期待すればいい。だが、書の異様さはこの現実と完全に一致しているところ。ボルヘスの白昼夢をリアルでなぞると、この物語りになる。 そうこれは「物語り」なのだ。最も面白い物語りとは、うちあけ話。最初の「ティーショップ」では、聴き手の女の子と一緒に、物語に呑み込まれて裏返される"あの感じ"を堪能すべし。そこでは聴き手が語り手となり、語り手が聴衆と化す。物語りは感染し、連環する。 ラストで彼女がとった行動に、一瞬「?」となるが、直後に鳥肌が走る。独りで読んでいるのに、周囲の空気が自分に集まってきて、世界に観られている感

    ボルヘス好き必読「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」
    karatte
    karatte 2012/07/11
    なにこれすげえ気になる
  • 「音楽の科学」はスゴ本

    音楽とは何か? 音楽を「音楽」だと認識できるのは、なぜか? 音楽を「美しい」と感じたり、心を動かされるのは、なぜか? 音楽好きなら、誰でも一度は思ったことを、徹底的に調べ上げる。そして、究極の問いかけ、「音楽は普遍的なものか」に対して真正面から答えている―――答えは"No"なのだが、そこまでのプロセスがすごい。 類書として「響きの科楽」を読んでいるが、こちらのほうが入りやすい。リズムや平均律、協和音、周波数といった音楽に関するトピックを取り上げ、音楽と快楽のあいだにあるものを浮かび上がらせる。 いっぽう「音楽の科学」はかなり踏み込んでいる。音楽の定義から、楽曲と使う音の恣意性、「良い」メロディの考察、音楽のゲシュタルト原理、協和・不協和音、リズムと旋律、音色と楽器―――ほぼ全方位的に展開される。さらに、音楽を聴くときの脳の活性状態についての研究成果と、音楽に「ジャンル」がある理由、「音楽=

    「音楽の科学」はスゴ本
    karatte
    karatte 2012/02/24
    "音楽の定義から、楽曲と使う音の恣意性、「良い」メロディの考察、音楽のゲシュタルト原理、協和・不協和音、リズムと旋律、音色と楽器―――ほぼ全方位的に展開される"
  • 徹夜小説「シャンタラム」

    鉄板で面白い小説はこれ。 もしご存じないなら、おめでとう ! あらすじも紹介も無いまっさらな状態で、いきなり読み始めろ(命令形)。新潮文庫の裏表紙の"あらすじ"すら見るの厳禁な。あと、上中下巻すべて確保してから読み始めるべし。さもないと、深夜、続きが読みたいのに手元にないという禁断症状に苦しむことになるだろう。 どれくらい面白いかというと、ケン・フォレット「大聖堂」、中島らも「ガダラの豚」、古川日出男「アラビアの夜の種族」級といえば分かるだろうか。要するに、「これより面白いのがあったら教えて欲しい」という傑作だ。寝惜しんで憑かれたように読みふけり、時を忘れる夢中(わたしは4回乗り過ごし、2度事を忘れ、1晩完徹した)。巻措く能わぬ程度じゃなく、手に張り付いて離れない。とにかく先が気になって気になって仕方がない。完全に身を任せて、物語にダイブせよ。 このエントリも含めて前知識は邪魔。読め

    徹夜小説「シャンタラム」
    karatte
    karatte 2012/01/20
    よーし古本屋でチェックだぜ
  • 食欲だけが、死ぬまで人間に残る「ラブレーの子供たち」

    べることは生きること。生きることを文学から知ろうとした人にとって、書は、懐かしくも未知の味に充ちている。 著名な芸術家が何を好んでべてきたかを調べあげ、その料理を再現する。それをみずから口に運び、かの人の「人となり」に思いを馳せるコンセプト。愛好している料理から、その人物の幸福感、ひいては世界観を引き出そうとする。ブリア=サヴァランのこの箴言を、素直にリアルに追求しているね。 「何をべているのか言ってごらんなさい、あなたがどんな人だか言ってみせましょう」 俎上にあがるのは、ロラン・バルトの天ぷら、小津安二郎のカレーすき焼き、谷崎潤一郎の柿の葉鮨など、いかにも美味そうな一品から、魔女の蛙スープ、ウナギのクリーム煮など、ちょっと遠慮したいものまで。 こういうは、書き手の読量がモノを言う。料理の感想文ではないのだから。たとえ素朴な料理でも、その背後の思想まで透徹するぐらい作品を読み込ん

    食欲だけが、死ぬまで人間に残る「ラブレーの子供たち」
    karatte
    karatte 2012/01/06
    四方田犬彦!
  • 完璧な小説「モレルの発明」

    いまなら分かる、ボルヘスが「完璧な小説」と絶賛した理由が。 なぜなら、読者がこれを読み進める行為を経て、初めて完成するという驚くべき小説なのだから。名前を持たない《私》の一人称の、二重の語り/騙りによって仕掛けられた、SF冒険小説として読むと、ただの面白いお話になるのだが……あらすじはこうなる。 絶海の孤島に辿り着いた《私》は、無人島のはずのこの島で、一団の奇妙な男女に出会う。《私》はフォスティーヌと呼ばれる若い女に魅かれるが、彼女は《私》に不思議な無関心を示し、《私》を完全に無視する。やがて《私》は彼らのリーダー、モレルの発明した機械の秘密を…… どうやら、彼ら来訪者たちに、《私》の姿は見えていないようだ。まるで《私》が幽霊であるかのように、来訪者たちは気づかない。これは罠なのか、油断していて捕えるつもりなのか、そう疑う語り手。 この秘密そのものは、早い段階でピンとくるが、問題はその後だ

    完璧な小説「モレルの発明」
    karatte
    karatte 2011/11/09
    ボルヘス絶賛とな
  • こんな死に方は嫌だ「人の殺され方」【劇薬注意】: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    日々に追われると、自分が死ぬ存在であることを忘れる。メメント・モリの実践。 わたしは死ぬ、なぜなら、生きているから。どんな死に方になるのか楽しみだが、「こんな死に方は嫌だ」と心底・痛切に思うのが、「人の死に方」。 人は、列車に轢断されたり、ナイフで一突きされたり、散弾銃で撃たれたり、首を吊ったり、溺れたりと、さまざまなことが原因で死ぬ。これらの死に様は、轢死、失血死、縊死、溺死と呼ばれる。それぞれの現場を写したビジュアルは強烈だ。酸っぱいものを飲みこみ飲みこみ読むうちに、死亡の究極の原因が見えてくる。それは、「窒息」、すなわち細胞が新鮮な酸素をもらえなくなることだ。そのプロセスは多々あれど、結局は窒息なのだ。 具体的に「見える」のもありがたい。「孤独死2週間目」「全身を強く打って」「頭を強く打って」「人身事故で」「線路内立ち入り」「メッタ刺しで」といったオブラートを剥がしてくれる。それぞれ

    karatte
    karatte 2011/10/31
    死を想え
  • 「千夜一夜物語」はスゴ本

    「死ぬまでに読みたい」シリーズ。 「あたり」に出会うと、ずっと読み続けたい、終わらなければいいのに……と思うことはないか?ページを繰る手ももどかしいのに、ページが尽きるのを惜しむ、矛盾した感情。「千夜一夜物語」別名「アラビアンナイト」は、まさにその鉄板の面白さ。誰が読んでも面白いという点では、古今無類であり、読む人の心を喜ばせ、高め、慰める力を持っている。 しかも、バートン版。「千夜一夜」は多くの人が編さん・翻訳しているが、なかでも一番エロティックでロマンティックでショッキングな奴が、バートン版なのだ。淫乱で野卑で低俗だという批判もあるが、その分、意志の気高さや運命の逆転劇が、いっそう鮮やかに浮かびあがる。妖艶な表紙からして子どもに見せられないし、残虐だったりドエロだったり萌えまくる描写が山とある。これらは、人性のドロドロの濃淡・陰影をつけるための淫猥ではないかと。 物語のバリエーションは

    「千夜一夜物語」はスゴ本
    karatte
    karatte 2011/10/26
    読んでみたくなった。性衝動は凡ての力の源となる。
  • 「気違い部落周游紀行」はスゴ本

    今風に言うなら、タイトルは釣り。だがホンモノの釣り針が入ってる。 とがった看板なのに中身は普遍、諧謔たっぷりのとぼけた会話を嘲笑(わら)っているうち、片言の匕首にグサリと刺される。そんなスゴい読書だった。 「気違い」と「部落」という反応しやすい強烈な用語を累乗しながら、中身はありふれた『ど田舎』の村社会を描く。でもその「ありふれ」加減は、いかにもニッポン的だ。彼らを笑うものは、この国を嗤うのと一緒だというカラクリが仕込まれている。 著者は、きだみのる。ファーブル昆虫記を全訳した業績は分かりやすいが、ひょうひょうとしながら熱い魂を抱いている。開高健風にいうなら、「胸にゴリラを飼う男」やね。紀行文に名を借りたこの痛烈な社会批判は、時代も場所もかけ離れているのに、ザクザクと胸にくる。 たとえば何でも名前やラベルを付けたがる悪癖を、ルヌーヴィエの箴言でチクっとやる。「人は事物の名を知ると、その名に

    「気違い部落周游紀行」はスゴ本
    karatte
    karatte 2011/09/28
    ※キチガイ地獄外道祭文とは一切関係ありません
  • 物本のキ○ガイ「モナ・リーザ泥棒」【劇薬注意】: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    ぬるいなどごめんだ、という方への劇薬小説。 プロットも描写もオチも想定内で、自分の世界を確認するような読書はいらぬ。頭ガツンとさせられるような期待を込めてページを繰るのだから。フランツ・カフカがいいこと言っている。 要するに私は、読者である我々を大いに刺激するような書物だけを読むべきだと思うのだ。我々の読んでいるが、頭をぶん殴られたときのように我々を揺り動かし目覚めさせるものでないとしたら、一体全体、何でそんなものをわざわざ読む必要があるというのか? そういう期待が行き過ぎると、劇薬小説というジャンルに手を伸ばす。これまでの戦果(戦禍?)は、[劇薬小説レビュー集]、[劇薬マンガレビュー集]にまとめた。文字通り、読んだことを後悔するほど感情・感覚・感性を、激しく揺さぶる作品ばかりだ。純度100%の恐怖の味や、自分の真ッ黒さを思い知らされる凶悪な奴ばかりで、若い人がうっかり読むと、トラウマ

    karatte
    karatte 2011/09/05
    昔このサイトで「問題外科」が紹介されてて、いつか読もうと思いつつ結局読んでなかったのをまたこのサイトで思い出すという変な感覚
  • 音楽と快楽のあいだ「響きの科楽」

    ずっと不思議だった疑問、「なぜこの曲に心が震えるのか」。 その謎が、ようやく解けて感動してる。しかも、分かったからといって、その曲への愛着が薄れるどころか、いっそう(狂おしいほど)増している。音楽について新しい耳をもたらしてくれる、嬉しいスゴ音楽は音から成り、音とは振動のこと。振動が音になるしくみは糸電話で子どもに説明できる。だが、音楽の音と、雑音の音の違いは何か、いつ音は音楽になるのか、そして、なぜ音楽を聴くと心が揺さぶられるのか……音楽家でもあり物理学者でもある著者は、科学的に解き明かす。同時に、音楽を「芸術」という枠に押し込めていた思い込みを砕いてくれる。音楽は物理学を基盤とした工学であり、論理学に則った芸術なのだ。 まず、書でいちばん嬉しかった部分―――「なぜこの曲に震えるのか」を振り返る。音楽が感情を揺さぶるのは、転調に秘密があるという。音階が上がっていくにつれ、その調の

    音楽と快楽のあいだ「響きの科楽」
    karatte
    karatte 2011/08/26
    こうして音楽は完膚無きまでに科学に還元され、絶えることはなくとも可能性の先細りを余儀なくされるのであった