法制史研究 Vol. 2005 (2005) No. 55 P 81-119,8 ポルトガル領事裁判権の回収について 明治二七年条約改正以前の事案本稿は最初の改正条約といわれる明治二七年に締結された日英通商航海条約に先立ち、日本がポルトガルの領事裁判権を回収した事件を取り上げ、その背景を紹介するとともに、条約改正における意義を問うものである。一九世紀後半に入るとポルトガルにはかつての繁栄はなく、イギリス、フランス、ドイツなどに比べれば、その存在は日本にとって決して重いものではなかった。他方、司法統計に表れた日葡間の民事事件数をみると、無視しうるほど小さい存在ともいいきれなかった。このような中間的位置にあって、ポルトガルが領事裁判を行うにあたって商人領事を用いたことが日葡間の紛議を生むこととなった。日本の度重なる抗議にもかかわらず、明治二五年にポルトガルが総領事館を廃止し、専任領事を本国に帰還させたことにより、日本は勅令六四号発布に踏み切る。これにより、万延元年以来の日葡修好通商条約中の領事裁判に関する条項を無効にせしめ、事後在留ポル
