私たちの価値観はマクロな世論や制度設計、人々の具体的な実践や意識から影響を受け、知ってか知らずでか変化している。ひときわ新しい技術の導入は、私たちの価値観に不可逆な影響を与える。2つの異なる身体間での臓器の取引を可能にした臓器移植医療もその一つである。 著者は臓器移植医療における一番の当事者であるドナーとその家族、レシピエントから生の声を得ると同時に、歴史、理念、政治、制度、およびグローバルな秩序の生成を系譜学的に描き出して、俯瞰した視点から観察された個人の経験及び出来事を解釈していく。賛成・反対の立場をとるのではなく、臓器移植という主題に私たちが見ようとしてきたもの、そして見落としてきたものをできる限り広く収集し、深く突き詰めている。 脳死という言葉は、そもそも臓器移植をおこなうために生み出され、普及したというのが正しい 脳死が先だったのか、臓器移植医療の成立が先立ったのか、著者は複雑な