文・西澤千央 撮影・小寺浩之監修・松崎晴雄(日本酒ジャーナリスト) 取材協力・佐々木 健(水博士、広島国際学院大学教授) 酒は水につれ、水は土地につれ。日本酒の80%は水からなる。とはいえ、個性のはっきりした「米」や「麹」と比べると、水はその正体が見えそうで見えない。 むかしむかしの江戸の町、八つぁん熊さんたちのささやかな楽しみといえば旨い酒をキュッと呑(や)ることだった。しかしそのほとんどが西からやってくる日本酒だったそうな。その中でも特に銘酒として人気を誇っていたのが、ご存じ「灘酒」。江戸後期にもなるとそれまで幅をきかせていた池田や伊丹の酒を抑え、一躍トップブランドに。当時の文献でも「灘目の酒を最上とす」やら「風味宜しく」やら灘の酒に庶民たちは惜しみない賛美を贈っている。灘がその名声を手にした理由――それは、日本酒に適した“水”を発見したからだった。 ところ変わって、こちら上方。魚崎(