日本国の言文一致運動は文壇の大きなうねりであった。殊に二葉亭四迷の浮雲は言文一致の進行に大いに貢献したと言われている。坪内を驚かせた本格的西洋文学理解をもとに、「日本最初の近代的小説」と評される『浮雲』は書かれた。森鴎外は二葉亭の追悼文集に寄せた文章で語る。 「あんな月並の名を署して著述をする時であるのに、あんなものを書かれたのだ。(......)『浮雲、二葉亭四迷』という八字は珍しい矛盾、稀なるアナクロニスムとして、永遠に文芸史上に残して置くべきものであらう。」 この様に評される『浮雲』の新しさは何処にあったのだろう。 『浮雲』はストーリーとしては、次の様なものである。主人公内海文三は叔父の家に寄宿し、その娘お勢とは婚約者同然の関係にある。そして、お互いに芽生え始めた恋愛感情を抱いている。ところが突然、文三は官を罷免になってしまう。それ以降、娘の母親お政の態度は変わり、お勢の態度もよそよ