沖縄密約事件 西山太吉の妻 37年目の初告白 夏の夕暮れ前、玄関から続く暗い廊下に一瞬、光が差し込み、蝉時雨(せみしぐれ)がなだれ込む。続いて、新聞受けがコトンと音を立てた。 もう、そんな時間...沖縄密約事件 西山太吉の妻 37年目の初告白 夏の夕暮れ前、玄関から続く暗い廊下に一瞬、光が差し込み、蝉時雨(せみしぐれ)がなだれ込む。続いて、新聞受けがコトンと音を立てた。 もう、そんな時間なのか。西山啓子(ひろこ)(七十四歳)は台所を離れると、新聞受けを開いた。毎日新聞の二〇〇九年七月十六日付夕刊を手にテーブルに戻ると、一面から順に記事を追う。最後のページをめくり、社会面に目を落としたときだった。「あっ」。下段の片隅にある顔写真に目が留まり、声にならない叫びが胸の内で消えた。訃報欄にあったのは、紛れもなくあの人の名前だった。 〈佐藤道夫さん 76歳(さとう・みちお=元札幌高検検事長、元