「延髄斬り」(延髄蹴り)は今では多くのレスラーが使う技の1つだ。でも、元祖であるアントニオ猪木のそれは一味も二味も違った。 猪木が観客の前で「延髄斬り」の原型を見せたのは、1977年10月に日本武道館で行われたプロボクサー、チャック・ウェプナーとの格闘技戦だった。その前に、タイガー・ジェット・シンとの後楽園ホールの試合でタイミング的には酷似したハイキックを見た記憶があるけれど、それは流れの中に消えてしまった。 ロープ際のウェプナーに猪木が飛び上がったが、リングサイドの私の目の前にはロープ越しにウェプナーの大きな背中があって、猪木の足先が上がっていくのしか見えなかった。ウェプナーはダウンした。何が起きたのか、よくわからなかった。 後で確認すると、この蹴りは狙った通りではなかった。猪木の右足は相手の頭をかすめただけだった。だが、もう一方の左足がウェプナーのこめかみを捕らえていた。これが偶然だっ