回想 | 00:24 | 記憶というものはいったい誰のものなのだろう、とときどき思う。僕という人間がいて、この目で見、耳で聞き、喜怒哀楽の七色に彩られた記憶は、知らぬまに失われてゆく。そうしてもう、こちらがわでは何を忘れたかも明らかにならないので、僕はこうして傀儡の哀とか献とか、よくて康などという諱を頂かんばかりに、大切なことにはなんにも気づかないまんま、舌を抜かれてあの薄気味悪い雲の向こうを泳ぎ彷徨うのかと思うと、とてもやりきれなくなってしまうのだ。本も明かりも投げ出し、ただ静寂に身を任せているのだ。それはついさっきまで、一片たりとも僕の記憶に存在すらしていなかったはずのものだった。僕が体験した経験であり、記憶であったかもしれない、ほんの映像の断片だった。喪失し千年を経て発掘された勾玉の青銅か、あるいは砂壁の楔形文字よろしく、そのとき突然、暗闇の雨だれ穿つ底に光が照らされたのだ。そして、