怖い話と志怪に関するonboumaruのブックマーク (29)

  • 中国の怖い話より 「画皮 美女の化けの皮」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 太原に王某ト申す士大夫がおりまして。 朝の散歩に出ておりましたが。 まだ霧深い森の中。 その靄へ吸い込まれてゆくが如く。 女がひとり歩いているのが見えました。 小さな体に大きな包みを抱えている。 まるで旅でもしているかのような格好で。 王は不審に思い、後を追う。 「もし、お嬢さん」 ト、声を掛けましたが。 女は振り返りもしない。 黙って歩いていくばかり。 王はますます不審に思い。 歩みを早めて追いつきますト。 並んで歩きながら、女を見た。 見れば、顔つきはまだ幼げで。 年の頃は十六、七でございましょう。 みずみずしい若さの中に。 凛とした美しさがございます。 「こんな朝早くにひとりでどこへ行くのです」 娘は伏し目がちな憂い顔を。 さらに深く沈ませまして。 「所詮は互いに行きずりの仲。憂愁を分かちあえるものではございません」 ト、顔立ちに似合わ

    中国の怖い話より 「画皮 美女の化けの皮」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/11/24
    清代の伝奇小説「聊斎志異」より
  • 中国の怖い話より 「幽女を見る目」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 越の紹興に沈某という若者がございまして。 この者の住処は東岳廟の参詣の途次にございました。 東岳廟トハ何ぞやト申しますト。 これは泰山府君を祀るもので。 では泰山府君トハ何ぞやト申しますト。 これは寿命を司る神でございます。 それ故、泰山府君は非常に篤い信仰を集めている。 参道は人出も多く賑やかでございます。 沈は参詣客たちに自宅で酒を振る舞っておりました。 我が朝で申さば、さしづめ伊勢の御師みたいなものでしょうナ。 さて、三月二十八日は泰山府君の誕辰。 つまり生誕日でございます。 参道はひときわ賑やかとなりまして。 沈家の門内も押すな押すなの大盛況。 沈も客たちの世話に馳せまわっておりましたが。 その喧騒という泥中に。 咲く蓮の花のごとき女の姿。 高貴な身なりの若い女人が。 外から門内を覗く姿がちらりト見えた。 その身は人形

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  • 荘園の森の艶やかな童女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 只今では節分の日になりますト。 豆を撒いて鬼を追い払ったりナド致します。 ところで、この風俗の大元はト申しますト。 「追儺(ついな)」ト申す新年の宮中儀礼で。 古くに唐土から伝わったのだそうでございます。 この時、鬼を追い払う役を「方相氏(ほうそうし)」トカ申します。 熊の毛皮を頭から被り。 四つの目玉のある仮面を着け。 黒い衣に、朱い裳を履き。 手には矛と盾とを握りしめている。 威容を持って鬼を追い払おうト申すのでしょうが。 ――これでは、どちらが鬼だか分かりませんナ。 事実、我々が今日思い浮かべる鬼の姿は。 この方相氏が元になっているトカ申します。 さて、お話は唐の開成年間のこと。 洛陽に盧涵(ろかん)ト申す者がございまして。 この者は年は若く、見目麗しく。 おまけに財力にも恵まれている。 実にイヤらしい男でございます。 金と暇とを持て

    荘園の森の艶やかな童女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/02/22
    唐代小説「伝奇」より
  • 子殺し幻術 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 唐の咸通年間のこと。 トある城下の、トある巷間に。 幻術使いが一人現れまして。 童子一人の手を引いておりましたが。 どうして、これが幻術使いと知れたかト申しますト。 「さあ、お立ち会い、お立ち会い。これから世にも不思議な幻術をお目にかけましょう。寄ってらっしゃい、見てらっしゃい――」 ト、みずから吹聴して歩いておりますから。 ナルホド、こいつは幻術使いだなト。 巷の人々にも知れたので。 まるで西域人みたような。 栗色の巻き毛に獣皮の帽子。 見るからに胡乱な男でございます。 ただし漢語は何故だか流暢で。 子どもたちは、二人の後をはしゃいでついていく。 大人たちも冷やかしに、後を追っていきますト。 トある広場に差し掛かるや、幻術使いは立ち止まった。 手を引かれてきた童子もまた、立ち止まる。 年の頃なら十歳ばかり。 まだあどけない童子でございます

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    onboumaru 2018/01/09
    「中朝故事」より
  • 吹雪の夜 一つ褥の妖かし話 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 かの国の都、北京は金魚胡同ト申す路地裏に。 徐四ト申す男が暮らしておりまして。 この者の家は赤貧洗うが如しでございます。 兄と兄嫁、徐四の三人が、狭い家に肩寄せあっておりましたが。 五倫の道にやかましいお国柄とは言いながら。 男二人に女一人がおしくらまんじゅうをしているのも同然で。 いくら義姉弟トハ申せども、そこは男と女でございます。 年来、徐四は兄嫁に禁断の恋心を抱き続けておりました。 この兄嫁は年は二十二。 郊外の百姓家から嫁いできたのが七年前で。 切れ長の涼し気な目に、鼻筋がスッと通っている。 色白の美人でございます。 対する徐四は年は二十。 童顔でおとなしい若者でございまして。 粗暴な兄とは見かけも中身も正反対という。 それはそれで釣り合いが取れてはおりましたが。 気性の荒い兄が兄嫁に手をあげるたび。 徐四は兄を制しては、ひとり胸を痛

    吹雪の夜 一つ褥の妖かし話 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/09/17
    清代の志怪小説「子不語」より
  • 妻の首をすげ替える | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 陵陽県ト申す地に、朱小明という男がございまして。 この者は性質は豪気ながらも、頭が弱い。 おかげで未だ学成らず、長く世に出られずにおりましたが。 ある晩、仲間内で酒盛りをしていたときのことでございます。 一人が朱をからかって、こう申しました。 「お前みたいなのは、学問なんざ出来なくったっていいのだ。豪傑は豪傑らしくしていればいい。そうだな、今から行って十王殿の東廊から判官像を背負って帰ったら、このあとの酒代は全部おごってやろう。どうだ」 十王殿ト申すは、冥界の十王を祀った廟でございまして。 そのうちの一人が、かの閻魔大王でございます。 東廊に立ちはだかっているのは、緑の顔に赤い髭という判官で。 これは閻魔大王の配下ですから、下手をするとバチが当たる。 この土地の十王殿では、昔から夜になりますト。 亡き者を厳しく責め立てる声が、東西の廊下から聞

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    onboumaru 2017/08/07
    「聊斎志異」より
  • 夜ごと女の首が飛ぶ 飛頭蛮 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 秦のころ、南方蛮地に落頭民ト申す異族がおりまして。 なんと首から上がひゅるひゅるトよく飛んだト申します。 この者たちの祭というのがまた凄まじい。 互いに首の飛ばしあいっこをして、ケラケラ笑っていたという。 その一部が飛びすぎて、海を越え我が日のまで飛び来たり。 ろくろっ首の先祖になったとかならなかったとか。 ――あまり当てにはなりませんナ。 ともあれ、秦の滅亡後。 この者たちも永らく忘れ去られておりました。 それから時代は降りまして。 時は三国鼎立の世でございます。 呉に朱桓(しゅかん)ト申す猛将がございまして。 孫権の側近として重んじられておりましたが。 この者がある時、下女をひとり、屋敷に置きました。 この下女というのがすこぶる愛嬌のある女で。 朱桓が通りかかると、上目遣いにニコッと笑う。 かと言ってそれが媚を売る風でもあり

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  • 子育て幽霊 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 淮河と長江に挟まれた宣城の地は。 かつて戦乱に巻き込まれたことがございまして。 人々は取るものも取りあえず、四方へ離散する。 土地は踏みにじられて、ペンペン草も生えない有様トなりました。 さて、その頃のこと。 さる百姓家に一組の若い夫婦がおりましたが。 夫は兵士に取られたまま帰ってこない。 身重のは大きな腹を抱えて、ひとりで家を守っている。 ところが、戦とは無情なものでございます。 ある日、敵軍の兵士たちがこの村へなだれ込み。 命乞いする人々を、容赦なく殺してしまいました。 難を逃れた者たちが帰ってくるト。 この家のが、大きな腹を守るようにして。 土間に倒れ込んでおりました。 「いけない。もう死んでる」 「可哀想に。お腹の子だけでも生かしてやりたかったが」 隣家の者たちは哀れに思いまして。 この女を村の廟の裏手の墓地に葬ってや

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    onboumaru 2017/02/27
    宋代の志怪小説「夷堅志」より
  • 魔物の棲む家 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 かの国の晋王朝の時代のこと。 呉興ト申す地に百姓がつつがなく暮らしておりました。 この者には息子が二人ございまして。 どちらも周囲が羨むほどの孝行息子でございましたが。 ある時、二人の息子はこぞって畑を耕しておりました。 「おい、小二」 ト、兄が弟に切り出した。 「何です」 「お前、夕べのこと父さんに謝ったのか」 「夕べのこととは、一体何です」 弟はキョトンとして兄を見る。 兄はその態度に思わず、ムッと腹を立てまして。 「おい、白を切るとただじゃおかないぞ」 ト、弟をギッと睨みつけた。 「何のことです。さっぱりわけが分かりませんが――」 弟は困惑して、兄を見た。 「それなら、俺から言ってやろう。夕べ、父さんが俺の部屋に来た」 「それで」 「それで、だと。ますます忌々しい奴め。父さんが俺に言うじゃないか。小二が近頃、夜遊びがひどくて

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    onboumaru 2017/02/16
    「捜神記」より
  • 土偶の博徒 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 肇慶(ちょうけい)は古代、百越の住まった地でございまして。 秦の始皇帝が、彼ら異俗の民を征服いたしまして以来。 かの地は漢人の管轄するところとなって、今日に至っておりますが。 土地には土地の神がおり、土地の霊が住まっておりますので。 いくら生きた人間の側が実権を掌握したつもりでおりましても。 我々の見えないところで、真の支配は脈々と続いているものでございます。 時代は下りまして、宋王朝の頃のこと。 ある番卒が夜中に城中の見回りをしておりましたが。 林の一隅にある亭(あずまや)の方角から。 何やら火の光が漏れているのが見えました。 「どこぞの乞どもが宴会でも開いていやがるか」 毎晩平穏無事な夜回りに。 番卒はちょうど退屈しておりましたので。 暇つぶしにはもってこいとばかりに。 灯りと話し声の方へと、ひとり歩いていきました。 ト、そ

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    onboumaru 2017/02/05
    宋代の志怪小説「夷堅志」より
  • 水を飲んだ女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 孟母三遷トいう言葉がございますが。 これは孟子の母が息子の正しい修養のために。 三度までも引っ越しをしたというお話でございまして。 一度目は、墓地の近くに住まいましたが。 息子が葬式の真似をして遊ぶようになった。 二度目に、市場の近くに住まったところ。 商売人の真似をして遊ぶようになった。 三度目に、学問所の近くに住まいいたしますト。 礼儀作法の真似事をするようになったという。 ここに至って、孟子の母はようやく納得したそうでございます。 これに鑑みますに古来、母親ト申すものは。 我が子の――殊に息子のト申して良いでしょうナ―― 子の人生を何かと管掌したがるもののようでございます。 ところがあまり口出しが過ぎますト。 後に災禍をもたらさないとも限りません。 唐の貞元年間のこと。 望苑駅の西に王申ト申す者が暮らしておりました。 この者は非常に義

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    onboumaru 2017/01/23
    「酉陽雑俎」より
  • 食い込む爪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 四人の若者が連れ立って旅をしておりました。 陽信県の外れ、街道沿いの村で日が暮れまして。 その晩の宿を探しますト、小さな旅店が一軒見つかった。 宿の主人は人の良さそうな老人でございます。 息子と二人で切り盛りしているという。 四人はこの宿ならト安心いたしまして。 さっそく草鞋ならぬ沓を脱ごうといたしましたが。 「お若い方々、今日は満室でございます。他を当たってくだされ」 老人も弱った顔をしていたが、若者たちも大いに弱った。 「他を当たってくれって言われたって。こんな町外れで他に宿なんてありゃしない」 「一晩寝かせてもらえればいいんです。物置でもなんでも文句は言わない」 「今、外に放り出されたら、我々はきっと追い剥ぎに遭いますよ」 「人助けと思ってなんとかしてください」 若者たちの懇願に、老人はふと何かを思いついた様子でございましたが。 「いや

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    onboumaru 2017/01/14
    「聊斎志異」より
  • 美女狩り、妖怪斬り | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 よく正義漢だとか熱血漢ナドと呼ばれる者がおりまして。 とかく世の中では、こうした者がもてはやされがちでございますが。 正義と独善は紙一重。 熱血と残虐もまた、表裏一体と申せます。 かつて平陽の県令を務めた者に。 朱鑠(しゅしゃく)ト申す壮漢がございましたが。 この者はとにかく、己の責務を全うすることに熱心で。 悪を憎み、善を尊ぶこと、ひとかたならず。 その正義が度を越すこともたびたびでございます。 罪人に対する責め苦は、苛烈を極めるものでございました。 悪人にはみずから拷問役を買って出まして。 わざわざ分厚い首枷や硬い棒を、特注したというくらい。 イヤ、嗜虐が正義の仮面を被っているのではないかという。 殊に女囚を責めることの無慈悲さは、筆舌に尽くし難く。 中でも妓女などはまるで、親の仇でもあるかのようになぶります。 「美をもって人を惑わす者に

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  • 沢の怨霊の片棒を担ぐ | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 昔、張禹ト申す勇猛な武将がございまして。 旅の途中で、大きな沢のほとりを通りかかりましたが。 一天にわかにかき曇りまして。 昼間というのに辺りは夜のように暗くなる。 今にも大雨が降り出しそうな、重苦しい空模様で。 沢の向こうに大きな屋敷が聳えている。 張禹はそれに気が付きますト。 濡れ鼠になっては面倒だト。 降り出す前に、門へト駆け込んでいきました。 屋敷の門はちょうど開かれておりましたが。 張禹が駆け込んでくるのを見て、下女が驚いて用件を問う。 「軒先で構わぬ。雨宿りをさせてもらいたい」 大男が実直そうにそう申しますので。 下女はとりあえず主人に取り次ぎに行きました。 しばらくして戻ってきた下女は、一転、にこやかな笑みをたたえている。 「どうぞ、軒先とおっしゃらずに中へお入りくださいとのことでございます」 ト、張禹を案内していきました。

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    onboumaru 2016/09/26
    六朝期の志怪小説「雑鬼神志怪」より
  • 一つが二つが四つになる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 昔、李頤(りい)ト申す者がございました。 この者は後に湘東の太守にまでなった人物でございます。 この李頤の父が、少し性質の変わった人でございまして。 妖かし、迷信のたぐいを一切信じません。 ただ信じないだけならともかくも。 これを好んで挑発するきらいがございます。 かの国では年男、年女は、赤い衣を身につける風習がございます。 これは自身の干支と同じ年――これを命年ト申しますが。 命年には、災いがあると考えられているからでございます。 つまり、赤には破邪、魔除けの効能があると信じられている。 それでは、李の父はト申しますト。 年男となった年に、敢えて黒い衣を身に着けまして。 喜々としてみなに見せびらかしている。 これではわざわざ邪鬼を呼び招いているようなものでございます。 ところが、その年一年間、特に変わったこともございませんで。 そうな

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    onboumaru 2016/09/18
    「捜神後記」より
  • 旅店の黒妖 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 よく、旅を人生に譬える御仁がございますが。 宿屋はさしずめ、人生の吹き溜まりと申せましょう。 吹き溜まりであるからには、あまり良い物は溜まっていない。 旅立っていくのは、清々しい大志ばかりでございます。 ここに、孟不疑ト申す一人の若者がおりまして。 科挙を受けるべく、長旅をしておりましたが。 昭義ト申す地に至り、土地の旅店に逗留いたしました。 かの国の習俗では、誰もが土足で部屋へ上がります。 とは言え、そこは人間ですから。 足かせをはめっぱなしでは、疲れも癒やされない。 そこで、宿へ着くとまず沓を脱ぎまして。 下女が足をすすいでくれることになっている。 時しも孟が、用意された盥に足を浸しまして。 ホッと一息ついておりますト。 何やらドヤドヤと騒ぎたてながら。 数十人もの一団が入ってきた。 周囲の囁きに耳を傾けますト。 どうやら、姓を張ト申す

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    onboumaru 2016/09/10
    唐代の伝奇小説「酉陽雑俎」より
  • 崖から突き落とした男 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 唐の貞元年間のこと。 河朔の地に、李生ト申す少年が住んでおりました。 李生は地方官吏の家に生まれまして。 それなりに学問もあるはずではございましたが。 どこをどう踏み誤りましたものか。 幼い頃からすこぶる素行が悪く、親からも見放されておりました。 十四、五の頃には、すでにならず者の一味に加わっておりまして。 すぐに仲間とも喧嘩別れをし、盗賊の真似事をしてひとりで暮らしておりました。 貧しい身なりをして、馬を乗りこなし。 弓矢を手に携えて、旅人をおびやかす。 そんな少年の姿に、人々は畏怖と好奇の眼差しを向けまして。 密かに「石窟小賊」と綽名しておりました。 さて、そんなある日のこと。 根城としている岩山の断崖を、李生が馬で進んでおりますト。 向こうから同じ断崖の道を、馬に乗って悠然ト向かってくる者がある。 年の頃は、李生と同じ十五、

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    onboumaru 2016/08/18
    唐代の伝奇小説「宣室志」より
  • 井戸の底に棲む女妖 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 我が日のでは、都が奈良にあった頃のことでございます。 金陵の地に、陳仲躬(ちん ちゅうきゅう)ト申す者がございました。 富裕な家庭に育ちまして、また生来の学問好きでございます。 千金の金を携え、洛陽へ遊学に行きました。 洛陽に着きますト、清化里という地に一人で住まい始めました。 この家には大きな井戸がございました。 以前から、人が落ちて溺れることが、よくあったそうでございますが。 仲躬は学問にのめり込むあまり、外へ出ることもございませんでしたので。 全くこのことを気にせずに過ごしておりました。 それから月日が流れまして。 ある時、隣家の十歳ばかりの女の子が、この井戸に落ちてしまいました。 毎日水を汲みに来ていた娘でございましたが。 ふとしたはずみで落下し、亡くなったとのことでございました。 井戸は深く、家内の者が総出で井戸浚いをいたしまし

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    onboumaru 2016/08/09
    唐代の伝奇小説「博異志」より。
  • 目玉を食う鳥 羅刹鳥 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 ある大家(たいけ)の倅がを娶ることになりました。 新婦の実家も非常な大家でございまして。 すこぶる釣り合いのとれた良い縁談でございました。 新婦は駕篭(かご)に乗る。 大勢の供が馬に乗って付き従う。 いやはや、祭りの行列のような壮麗さでございます。 そのお練りの一行が長い道のりを経まして。 ある古い塚の前を通り過ぎました時。 不意に一陣の風があたり一面に吹き渡りました。 竜巻がたちまち砂塵を巻き上げる。 ぐるぐるト、新婦の周囲を幾重にも巡ります。 供の者たちは、砂に目をやられて、のたうち回る。 その間に、嵐は徐々に鎮まりました。 目を開けてみますト、幸いに駕篭は無事でしたので。 一行は不思議に思いつつも、再び出発する。 どうにかこうにか、新郎の家に辿り着きました。 ト、駕篭を庭先に下ろしたところで、事は起きた。 下女が簾を上げて、新婦を駕篭

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    onboumaru 2016/07/29
    清代の志怪小説「子不語」より
  • 画中の人 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 ある地方に冉従長(せんじゅうちょう)ト申す軍人がございました。 この者は詩や書画の類をこよなく愛しまして。 これらに従事する者を篤く庇護しておりました。 そのため、冉の邸宅には様々な文人、画人が集まって暮らしておりました。 ある時、そのうちのひとりが竹林の七賢人の画を描きました。 竹林の七賢人ト申しますのは、三国末期に現れた七人の世捨て人のことでございまして。 俗世を嫌って酒を愛し、山中に籠もって談論を交わしたトされておりますが。 かの国でも、また我が日のでも、古くから画題として好まれてまいりました。 その頭領格を阮籍(げんせき)ト申しまして。 俗物が来ると「白眼」で追い返し。 好人物は「青眼」で迎えたト伝えられております。 いわゆる「白眼視」の謂われですナ。 さて、この冉従長の邸宅に集まる者たち自身が、竹林の七賢人を気取ったところがござ

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    onboumaru 2016/07/21
    唐代の伝奇小説「酉陽雑俎」より