こんな話がございます。 清国の話でございます。 太原に王某ト申す士大夫がおりまして。 朝の散歩に出ておりましたが。 まだ霧深い森の中。 その靄へ吸い込まれてゆくが如く。 女がひとり歩いているのが見えました。 小さな体に大きな包みを抱えている。 まるで旅でもしているかのような格好で。 王は不審に思い、後を追う。 「もし、お嬢さん」 ト、声を掛けましたが。 女は振り返りもしない。 黙って歩いていくばかり。 王はますます不審に思い。 歩みを早めて追いつきますト。 並んで歩きながら、女を見た。 見れば、顔つきはまだ幼げで。 年の頃は十六、七でございましょう。 みずみずしい若さの中に。 凛とした美しさがございます。 「こんな朝早くにひとりでどこへ行くのです」 娘は伏し目がちな憂い顔を。 さらに深く沈ませまして。 「所詮は互いに行きずりの仲。憂愁を分かちあえるものではございません」 ト、顔立ちに似合わ
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