久しぶりのカセルはどこかすべてが懐かしく、それでいてひとつひとつが新鮮だった。 以前はよく訪れていたというのに、気がつくと遠ざかってしまい、思えばもう四年以上もこの地に足を踏み入れたことはなかった。 そんなに経ったのか、という感慨が今さらながらに込み上げてくる。ノイシュタット侯を引き継いでからというもの、毎日が矢のように行き過ぎ、知らず知らずのうちに昔は当たり前のように行っていたことでさえできなくなっていった。 ――これが大人になるということなのか。 だとしたら、大人とはなんと退屈なものなのか。本来したいこともできず、ただ似たような日々をくり返していく。 そうして、気がついたときにはもう、老いている。 「漫然と日々を過ごしていると、時間が経つのが早いものだな」 「どうしたのです? 急に」 椅子に座ったまま大きく伸びをしたフェリクスに、斜向かいにいるオトマルが驚いた。 「なに、退屈な毎日だと
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