森の空気は冷たく、帝都の喧噪が嘘のようにあたりは静まり返っている。響くのは雨の音ばかりで鳥の鳴き声すらしない。 「なんとも嫌な雨ですね」 「そうでもないわ」 ユーグが大樹の下から恨めしげに空を見上げ、アーデはただ前方を一心に見つめている。 一行は帝都を脱出し、南の森の中に潜んでいた。周囲では無数の翼人が待機し、静かな面持ちでアーデの号令を待っている。 姫はそんな彼らを見回してから、視線を元に戻した。 「この雨と霧のおかげで視界が悪くなってる。私たちみたいに表立って行動できない側にとってはありがたいことよ」 「それはそうですが……」 一方では、翼人にとって雨はあまり好ましいものではない。 翼が濡れてしまうし、ひとつの武器でもある目のよさが活かしきれない。実際、周りにいる仲間も羽に雨が当たるのを明らかに嫌がっていた。 とはいえ、これくらいで弱音を吐くような戦士は、ここにはひとりとしていなかった
![つばさ - 第十章 すべての終止符と喜びと](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/1e38d2fb5f26ac4692ccb483d40bb2ecec617270/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fsbo.syosetu.com%2Fn7313bm%2Ftwitter.png)