辺りはすっかり暗くなり、どれほどの時間が経ったのか、遠くのほうから梟の鳴く間抜けな声が聞こえてくる。 ヴァイクたちはあれから、そこを一歩も動くことができなかった。体に力が入らず、考える気力もない。 それほどまでにリゼロッテを失った悲しみ、そして衝撃は大きかった。 あの子はただの子供ではなかった。皆のこころの支えだった。 それはもう、完全に失われてしまった。永遠に帰ってくることはない。その喪失感が、どうしようもなくそれぞれのこころを|苛(さいな)んでいた。 ――このままではいけない。リゼロッテの分も一生懸命に生きなきゃいけない。 理性がそう訴えかける。しかし、理性以外のすべてがそれを拒絶していた。 ヴァイクは、月明かりに半分照らされた自分の手を見つめていた。 ――この手。この手はいったいなんだろう。 自分のために動いてきた手。 多くの命を奪ってきた手。 そして、ひとりの少女を救えなかった手。
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