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ファンタジーと小説に関するoukastudioのブックマーク (150)

  • つばさ - 第五章 真実

    辺りはすっかり暗くなり、どれほどの時間が経ったのか、遠くのほうから梟の鳴く間抜けな声が聞こえてくる。 ヴァイクたちはあれから、そこを一歩も動くことができなかった。体に力が入らず、考える気力もない。 それほどまでにリゼロッテを失った悲しみ、そして衝撃は大きかった。 あの子はただの子供ではなかった。皆のこころの支えだった。 それはもう、完全に失われてしまった。永遠に帰ってくることはない。その喪失感が、どうしようもなくそれぞれのこころを|苛(さいな)んでいた。 ――このままではいけない。リゼロッテの分も一生懸命に生きなきゃいけない。 理性がそう訴えかける。しかし、理性以外のすべてがそれを拒絶していた。 ヴァイクは、月明かりに半分照らされた自分の手を見つめていた。 ――この手。この手はいったいなんだろう。 自分のために動いてきた手。 多くの命を奪ってきた手。 そして、ひとりの少女を救えなかった手。

    つばさ - 第五章 真実
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    oukastudio 2013/03/15
    辺りはすっかり暗くなり、どれほどの時間が経ったのか、遠くのほうから梟の鳴く間抜けな声が聞こえてくる。  ヴァイクたちはあれから、そこを一歩も動くことができなかった。体に力が入らず、考える気力もない。  
  • つばさ - *

    「アーデ様、そろそろお休みください」 背後からかけられた声に、窓の外をなんの気なしに眺めていた妹姫はゆっくりと振り返った。 「何よ、ユーグ」 「明日もまたいろいろな仕事があるのです。今のうちに体を休ませておきませんと、あとでつらくなりますよ」 アーデは、ノイシュタット侯の実妹としての責務だけでも数多くのものがあった。 姫とはいえ、ずっと遊んでいられるわけではない。それどころか平民の娘たちよりも、自由になる時間は圧倒的に少なかった。 そのうえ、彼女は|まったく別の仕事|(、、)もこなさなければならない。人が選んだ道とはいえ、その負担は尋常ならざるものがあった。 しかし、アーデはけっして弱音を吐かない、文句を言わない。その芯の強さは、男であるユーグでさえ感服するほどであった。 ゆえにこそ、無理をしすぎないよう周りが気を配ってやる必要がある。 「さっさと寝てください」 「こんな時間に男が自分の

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    oukastudio 2013/03/12
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  • つばさ - *

    「アーデ様、そろそろお休みください」 背後からかけられた声に、窓の外をなんの気なしに眺めていた妹姫はゆっくりと振り返った。 「何よ、ユーグ」 「明日もまたいろいろな仕事があるのです。今のうちに体を休ませておきませんと、あとでつらくなりますよ」 アーデは、ノイシュタット侯の実妹としての責務だけでも数多くのものがあった。 姫とはいえ、ずっと遊んでいられるわけではない。それどころか平民の娘たちよりも、自由になる時間は圧倒的に少なかった。 そのうえ、彼女は|まったく別の仕事|(、、)もこなさなければならない。人が選んだ道とはいえ、その負担は尋常ならざるものがあった。 しかし、アーデはけっして弱音を吐かない、文句を言わない。その芯の強さは、男であるユーグでさえ感服するほどであった。 ゆえにこそ、無理をしすぎないよう周りが気を配ってやる必要がある。 「さっさと寝てください」 「こんな時間に男が自分の

    つばさ - *
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    oukastudio 2013/03/10
    「アーデ様、そろそろお休みください」  背後からかけられた声に、窓の外をなんの気なしに眺めていた妹姫はゆっくりと振り返った。 「何よ、ユーグ」 「明日もまたいろいろな仕事があるのです。今のうちに体を休ませ
  • つばさ - >

    が、アセルスタンの動きはそこで止まった。 昏い炎が宿った瞳に困惑の色をのせ、ベアトリーチェを――否、その真後ろにいる小さな姿に視線を向けている。 「なんだ……その子は」 朱色の翼をした翼人の子供が、大きめの外套の上に寝かされている。顔の血色はひどく悪く、粘性の汗をびっしょりとかいている。 アセルスタンはすぐに気がついた。この様子は―― 背後をすぐさま振り返り、キッと睨みつけた。そこには、ようやく追いついてきたヴァイクが顔をしかめたまま突っ立っていた。 「貴様! なぜ、ジェイドを喰わせてやらない!?」 ヴァイクの胸ぐらを掴んで問い詰める。 あれは間違いなく、ジェイドが不足しているときの症状だ。翼人の子供がひとりでいるのならともかく、なぜそばに戦士がいながら必要なジェイドを与えてやらないのか。 「リゼ……その子がジェイドはいらないというんだ。もう仕方がない……」 アセルスタンとは目を合わせずに

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    oukastudio 2013/03/09
    が、アセルスタンの動きはそこで止まった。  昏い炎が宿った瞳に困惑の色をのせ、ベアトリーチェを――否、その真後ろにいる小さな姿に視線を向けている。 「なんだ……その子は」  朱色の翼をした翼人の子供が、大
  • つばさ - *

    空気が張りつめているのに、どこか弛緩していた。 袋にたっぷりと水は入っているのに、どこかの小さな穴から大切な水が流れ出てしまっているような虚しさ。その穴を塞ぎたくとも、その手段がない。 そのジレンマ、その苦悩。耐えがたいほどの焦燥がそれぞれの内側を蝕んでいく。 リゼロッテは動けなくなった。 みずからの足で立ち上がることができないだけでなく、もう意識があるのかどうかも疑わしい状態だ。 もう少し進んだところに、かつてロシー族が住んでいたらしい洞穴がある。当初の予定ではそこで休むつもりだったのだが、リゼロッテを無理に動かすことができなくなった今となっては、もうこの木陰で様子を見るしかなかった。 「リゼロッテ……」 ベアトリーチェは目にうっすらと涙を浮かべながら、少女にあげたはずのスカーフで顔を拭いてやっていた。 なぜ、もっと早くに気づいてやれなかったのだろう。 気丈にも一言も弱音を吐こうとはしな

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    oukastudio 2013/03/07
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  • つばさ - *

    どうして、自分はここにいるのだろう。 絶望感に苛まれ、同族から蔑まれ、無力感に打ちひしがれる。 どうして、まだ生きているのだろう。 ジェイドも喰わず、そのまま放っておけば自然に朽ちていくはずだった。 しかし、なぜかまだ生きている。 なぜかまだ生きようとする。 それもこれも、あの襲いかかってきた連中のせいだ。こちらが翼のない不具者だからと甘く見て、ジェイドを得ることを目的に戦いを挑んでくる。 しかし、たとえ空を飛べなくなったとはいえ、そこら辺の戦士にやられるほど腕は錆びついちゃいない。 結果、相手のほうがやられ、自分の目の前には新鮮なジェイドが残る。それを、ただ淡々と喰らっていく自分がいた。 ――そうだ、奴らのせいだ。 自分はもう生きたいわけじゃない。部族を追放され、尊崇する族長にも見捨てられ、もはや希望という名の光をすべて失った。 それでもまだ|生きてしまっている|(、、)のは、弱いくせに

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    oukastudio 2013/03/06
    最新話を「小説家になろう」「小説を読もう!」に投稿  どうして、自分はここにいるのだろう。  絶望感に苛まれ、同族から蔑まれ、無力感に打ちひしがれる。  どうして、まだ生きているのだろう。  ジェイドも喰
  • つばさ - *

    自分が人間の住居にいることに、未だに強烈な違和感を覚える。 マクシムら〝|極光(アウローラ)〟の面々は、ある捨てられた町の廃屋に|集(つど)っていた。翼人が普段建物の内部にいることはなく、ましてや人間の家屋で暮らすはずもない。 だが、はぐれ翼人の集団が一塊になっているのはあまりにも目立ちすぎた。人間に見つかってもたいした問題ではないが、同族の場合はやっかいだ。 しかも相手が部族となると、負けない自信はあるものの、お互いにただでは済まなくなる。今はまだ、同族同士で争うべきときではなかった。 「マクシム、みんなの間に動揺が広がっている。どうする?」 かけられた声に振り返ると、そこには細身ではあるが鍛え上げられた体をした男が立っていた。 マクシムが副官と頼みにする男、クラウスだ。 「例の件か」 「あれは、いくらなんでも衝撃が大きすぎた。|大弩弓(バリスタ)を使われたこともそうだが、それがあの飛行

    つばさ - *
  • つばさ - *

    眼下には瓦礫ばかり。凄惨という言葉がこれほどふさわしい光景はない。 アルスフェルトの状況は想像を超えるものがあった。無事な建物はほとんどなく、町の外には犠牲者の遺体を埋葬した盛り土が無数にある。 一方、さすがに翼人による大規模な襲撃はすでにやんでいた。 しかし、小競り合いはあちらこちらで行われ、圧倒的に劣勢な人間たちがひとり、またひとりと倒れていく。 驚くべきは、戦士と呼ぶべき存在が人間の側にはまるでいないことだ。 人間の世界では専門の騎士や衛兵というものが存在し、集落の治安を守っていると聞いたことがあったが、しばらく見たかぎりではそういった人々の影は確認できなかった。 ――真っ先に翼人にやられてしまったのか? 十分有り得ることだが、それにしても援軍がやってくる気配がまるでないのはどうしてだろう。西のほうで甲冑に身を包み、馬に乗った集団を見かけた気がするが、あれが援軍なのだろうか。 しかし

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    oukastudio 2013/03/04
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  • つばさ - *

    雨が少し降ったせいか、少しひんやりとした心地のよい風が吹きすぎてゆく。草原の草花は雫に濡れ、かすかな陽光にきらめいている。 アーデとユーグは、城の西にある平原を訪れていた。しばしば軍の訓練に使われている場所だ。よく見ると、あちらこちらに矢柄が落ちているが気にしないことにした。 「やっぱり、乗馬は気持ちがいいな」 アーデは、栗毛の馬に乗って悦に入っている。 その隣で、ユーグは憮然とした表情をしていた。 「相変わらず、殿下はお元気ですね」 「相変わらず、ユーグは不景気な顔してるわね」 ちょっぴり皮肉を込めて姫に言ってやったのだが、まったく通用しなかったようだ。アーデが涼しい顔で返してきた。 まったく、この華奢な体のどこに無尽蔵とも思える体力が潜んでいるのかと思う。ノイシュタット侯の妹姫とはいえ意外にやるべきことが多く、ほとんど時間的な余裕はない。 にもかかわらず、疲れた様子は微塵も見せずにこう

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    oukastudio 2013/03/03
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  • つばさ - *

    「誰だ、窓を開けっ放しにしたのは」 文句を言いながらも自分で閉める。小雨が降りはじめ、少し風が吹き込んできた。 ノイシュタット侯フェリクスは、はた目にも不機嫌なのは明らかだった。よほど悩みがあるのか、頭はくしゃくしゃで目にはうっすらと隈ができ、貴公子と呼ばれた面影はもうない。 「フェリクス様、落ち着いてください。苛立っても状況は悪化するだけで、なんの得もないですぞ」 と言うオトマルも、実際のところフェリクスと似たり寄ったりの状態だった。 諸侯からの急使が矢継ぎ早にやってきて、その対応だけでも精一杯だというのに、領内で翼人に襲われたという事実を考慮し、今後の対策まで練らなければならない。 体が、頭が、いくつあっても足りなかった。 「それにしても、オリオーンの件が噂になるのは早かったな」 「仕方がないのかもしれません。箝口令を徹底させるのが難しかったもので」 もしかしたらあの攻撃による衝撃は、

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    oukastudio 2013/03/02
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  • つばさ - *

    ルイーゼは人知れず、そっとため息をついた。 けっして広くはない部屋に大男が二人もいると、むさ苦しいことこの上ない。しかも、片方は背中から翼を生やしているときている。屋内では邪魔でしょうがなかった。 自分のことに無頓着なのか、あっちこっちに翼の端を引っかけてくれる。そのたびに片付けに走らされる自分としては、たまったものではなかった。 なのに、当の人はゴトフリートと楽しげに何やら会話をしているのだから、腹立たしいったらありゃしない。 「何かいいことでもあったのか?」 「ああ、懐かしい顔に会った」 ゴトフリートが声をかけると、白翼の大男――マクシムは、にやりと笑って答えた。 「懐かしい顔、か。うらやましいことだ。私も会いたい男がいるのだが、今はさすがに動けん」 「男か。女っ気のないお前らしい」 二人は笑い合うが、それを聞いていたルイーゼはむっとした。 ――自分は女の範疇に入ってないとでも!?

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    oukastudio 2013/03/01
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  • つばさ - 第四章 さよならの言葉

    自分のこころの内を象徴するかのように、空はどんよりと曇っている。 ベアトリーチェは歩を進めながらも、その目は周囲の景色を見てはいなかった。 ――どうしても、神殿の対応のことが気になる。 なぜ、神官が真っ先に逃げたのか。 なぜ、聖堂騎士団を動かさないのか。 ここに来るまでいろいろな人たちに話を聞いたが、神殿が翼人の対応のために動いたという噂はついぞ耳にしなかった。 ――アルスフェルトやジャンの村以外にも、翼人の被害に遭っているところはかなりあるというのに。 余計に、神殿がなんの反応も示さない理由がわからなくなってきた。 セヴェルスの言葉が思い起こされる。 〝結局、役人も神官も自分たちのことしか考えてないってことだ。都合が悪くなれば、それ以外のものを平気で切り捨てる〟 当にそうなのだろうか。仮にそうだとしても、神殿側の〝自分たちのこと〟とはなんだろう。 「どうした?」 ひたすらにうつむいて歩

    つばさ - 第四章 さよならの言葉
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    oukastudio 2013/02/28
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  • つばさ - *

    ノイシュタットの近衛騎士、ヨアヒムは馬上で震えていた。 ――今、目の前で起きた光景はなんだ? 突然、我々の飛行艇が現れたかと思うと、次の瞬間には矢が雨のように降ってきた。 そしてつい先ほどまでこちらを圧倒していた翼人どもが、見る間にその餌となっていった。 ――これは、当に戦いなのか? 自分たち騎士や兵士は何もしていない。言われるまま後退し、眼前で繰り広げられる光景を呆然と見つめていただけだ。 正直、翼人どもは恐ろしかった。 翼を生やして空を飛ぶし、剣は信じがたいほどに達者だ。あのままだったら、やられていたのは自分たちのほうだったろう。 ――しかし、これでよかったのか。 自分は、戦いには勝ち負けにかかわらずそれなりの意義があると思っていた。決闘によって正義が守られることもあるように。 だが、さっき起きたことはただ単に|敵をまとめて殺した|(、、)というその事実だけだ。 そこには、善悪の概

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    oukastudio 2013/02/27
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  • つばさ - *

    馬での行軍は久しぶりだった。しかし、まるで違和感はない。 ようやく日々の雑務から解放された喜びとともに、外の新鮮な空気と騎士団の中にいる程よい緊張感を味わっていた。 軍は、もうすでにフィズベク地方に入ろうとしているところだ。周辺にいた南方守備隊とも合流し、これから格的な暴動鎮圧が始まろうとしていた。 「オトマル、もしかしたらそろそろかもしれん」 「ですな。今回の件は妙なところがありますから、そこら辺の森に伏兵が潜んでいるやもしれませぬ」 まるで世間話でも交わすかのような雰囲気で、二人が確認し合う。 「それにしても、ユーグが城に残ったのはもったいなかったですな」 「そうでもないさ、今回は、このノイシュタットの未来を左右するような戦いにはならないはずだ。城でアーデのお守りをしてくれていれば十分だ」 「ですが、できれば実戦を経験させておきたかったのです。あの男は、極端に戦を嫌っているところがあ

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    oukastudio 2013/02/26
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  • つばさ - *

    暗夜の中、アーデはすっかりあわてていた。それはもう、彼女を知る者からすれば驚愕するほどに。 「は、早くお兄様に報告を! ユーグ! ユーグ! 何をしているの!」 「落ち着いてください、姫」 ここまで取り乱すアーデも珍しい。とにかく、尋常ではないほどに冷静さを失っていた。 「ここまで来ると、哀れというより無惨ね」 「うるさいわね! 大変なんだからしょうがないじゃない」 窓のほうから聞こえてきた声に、アーデがあからさまにくってかかった。窓際に腰かけているのか、薄暗がりの中、女性のなまめかしい足だけが明かりに照らされて見える。 夜もすっかり更けていた。騎士団の一部が出払っているせいか城内はいつもよりも静かで、どこか不気味な雰囲気さえあった。 フェリクスが出立してから、すでに三日が経っている。公式の使者が城に前線の報告をするよりも早く、ヴァレリアがすでにフィズベクの様子を見て帰ってきたのだった。 「

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    oukastudio 2013/02/25
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  • つばさ - *

    炎というのは、なぜ人のこころに訴えかけるのだろうか。 うれしいときには情熱の炎となり、悲しいときには冷たい炎となる。そして、敵意を内に秘めたときは憎しみの炎となるが、今はゆっくりと揺らめく炎にあたたかさと優しさを感じていた。 もう、夜も更けていた。空にはすっかり夜のとばりが下り、辺りを闇の中に包み込んでいる。 さらに歩を進めたヴァイクたち一行は、デューペという都市の町影がうっすらと見えるところまでたどり着いた。 ベアトリーチェの頼みで、そのさらに先にあるシュテファーニという名の神殿に寄ることになっていた。 だが、町まであともう少しというところで夜営することを余儀なくされた。 リゼロッテの体調が未だ思わしくないからだ。帝都に到着するまでの予定は、大幅に遅れていたが仕方のないことだった。 「いやあ、でもよかったよ、リゼロッテちゃんがだいぶ回復したみたいで」 美味しそうに水を飲むリゼロッテを見て

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    oukastudio 2013/02/24
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  • つばさ - *

    どうしてこんなことになったのか。 ついこの間まですべてが順調だった。それがわずか――わずか一度の戦いですべてが引っくり返った。 ――これが運命だとでもいうのか。 理不尽な思いが心をしめつける。すべてが必然だというなら、あの敗北さえも定められていたことなのか。 この苦境も。 この怒りも。 この憎しみさえも。 ――すべてが消えてくれたらいいのに。 あらゆる存在が消えてしまえば、自分もこの苦しみから解放されるだろう。 何も悩まなくて済むだろう。 誰にも蔑まれずに済むだろう。 片翼は、ただの重りでしかなかった。 偏った凄まじい重圧。 いっそ、みずから切り落としてしまいたい。 ――俺はどこへ行けばいい、どうしたらいい。 まったくわからない。 四方が深い霧に包まれているようで、もう何も見えない。 何も聞こえない。 何も感じられない。 それなのに、不思議とどこかへ落ちていくような感覚はあった。 支えなき

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    oukastudio 2013/02/22
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  • つばさ - *

    ノイシュタット侯フェリクスの妹たるアーデルハイトは、自室のベッドの上で無様にのたうち回っていた。 「お兄様が出陣なさるなんて!」 青天の霹靂もいいところだ。南方のフィズベクで反乱が起きてしまったことはともかく、まさか兄自身が軍を率いてここシュラインシュタットを発つことになろうとは、夢にも思わなかった。 「それなのに、私は何もできないなんて~!」 まるで子供のように枕を何度も叩く。 その対象が自分だったら、と背筋に冷たいものを感じながら、ユーグは嘆息した。 「他の人には見せられない姿ですね」 「当たり前じゃない! |淑女(レディ)の自室をそうそう見せられるもんですか!」 そういう意味で言ったのではないのだが、と思ったもののあえて言わないでおいた。今へたに触れると、とばっちりがこちらまで飛んできかねない。 「あぁ、お兄様に何か言えばまた怒られるのは目に見えているし……」 「難儀なものですね」

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    oukastudio 2013/02/19
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  • つばさ - *

    気分を変えたかった。 そこでバルコニーへ出て仕事を執り行おうとしたのだが、これは完全に裏目に出てしまった。 あまりにも天気がよすぎる。 抜けるような青い空と風に揺れる緑豊かな木々を見ていると、自分はなぜこんなにもくだらない執務にとらわれているのかと、さらに憂な気分にさせられる。 「また愚痴が出そうですな」 「先手を打たないでくれ」 他人事のようにオトマルが笑っている。もっとも仕事の量だけを比べれば、彼のほうが多いくらいなのだが。 「そんなに気分転換したいのなら、例の弓兵隊の訓練でもご視察なさいますか」 フェリクスの瞳がぎらりと輝いた。 「どこでやってるんだ? どこまで進んでいる?」 「西の平原です。新しく徴兵した分も|交(ま)ざっているのでまだまだですが、それなりの形は出来上がりつつあります」 「|訓練の交代制|(、、)を導入したんだったな」 「一般の兵士たちは、普段それぞれ自分の仕事

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    oukastudio 2013/02/18
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  • つばさ - *

    人はなぜ争うのか、と問うたところで実際に争っている現場では無意味だ。 翼人と人間はなぜ対立するのか、と問うたところで答えが出るはずもない。 なぜなら〝翼人〟と〝人間〟という形に分けて考えること自体、対立と闘争の前提となっているからだ。それぞれ違うといえば違うのだから、区別はわきまえる必要がある。 だが常に、区別は差別へと転化しやすい。互いの違いをわきまえつつ、互いを認め合うことができるような人物は、翼人にも人間にもほとんどいなかった。 すなわち、この世界における差別と闘争とは必然なのだ。 それをなくすにはどうしたらいいのかだって? 方法は二つある。 それぞれがより高度な次元へ己の精神を高めるか、もしくはすべてが滅び去るか――。何もなければ、そこになんらかの問題があるはずもない。 あらゆる存在の無は、あらゆる問題、あらゆる限界の無をも意味する。 「しかし、それはあらゆる幸福、あらゆる喜びの無

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    oukastudio 2013/02/17
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