血が手から肘へ伝い、|滴(したたり)り落ちていく。 刻々と流れつづける赤い|雫(しずく)。それはやがて大地の母が受け止めきれなくなったのか、ひとところに集まりはじめた。 ヴァイクは己のものではないその液体を呆然と眺めていた。 なぜ、こんなことになった。 なぜ、兄は倒れている。 なぜ――自分は兄を助けられなかった。 「兄さん……」 絶望的な思いが声となって出てしまう。折れそうになるこころは、助けてくれと誰にともなく叫んでいた。 「ヴァイク」 狂乱しそうになる精神をぎりぎりのところで支えたのは、他ならぬ兄の声だった。ヴァイクと呼ばれた少年は、あわてて彼の口元に耳を寄せた。 まだ意識があった。兄の声が聞ける。もっともっと話したいことはいっぱいあった。 お願いだから目をつむらないでほしい。ずっと自分を見ていてほしい。まだ自分には兄という存在が必要だった。 しかし兄ファルクの言葉は、期待とは裏腹のも
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