東京・世田谷にリンゴの「行商」で妻と5人の子どもを養う男性がいる。ムカイ林檎店の片山玲一郎さんの売り上げは1日あたり10~15万円。多い日には30万円にもなるという。リンゴを売って生計を立てる元ジャズピアニストの数奇な半生を、フリーライターの川内イオ氏が描く――。 コンビニの駐車場にて 「今、あの人に声かけてきますね」 そう言うと、片山玲一郎さん(38)は軽やかに歩き出した。片山さんはリンゴの行商を生業にしていて、妻と5人の子どもを養っている。 この日、僕は10時から2時間ほど、片山さんの行商に同行させてもらった。僕から質問や撮影をしながらになるので、片山さんのもとで行商歴9年のマキさんが、サポートについてくれた。 行商とはなにか? 検索してみると、「店を構えず、商品を持って売り歩くこと」(デジタル大辞泉)とある。片山さんの仕事は、まさにそのまま。軽バンに青森県大鰐町おおわにまちから仕入れ
2021年1月20日、アメリカのジョー・バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領の就任式で、全米の、いや世界中の注目をかっさらったのが、自作の詩を朗読した22歳の詩人アマンダ・ゴーマンだ。「私たちがのぼる丘」と題されたその詩を全訳でお届けする。 日が昇ると、私たちは自問する──どこに光を見いだせようか、この果てなき陰のなかに。 私たちが引きずる喪失、歩いて渡らねばならない海。 私たちは果敢に、窮地に立ち向かった。 平穏が平和とは限らず、「正しさ」の規範や概念が正義とは限らないことを学んだ。 それでもその夜明けは、いつのまにか私たちのものだ。 なんとか私たちはやるのだ。 なんとか私たちは切り抜け、目の当たりにしてきた──壊れてはいないが、ただ未完成の国を。 私たちは、一国一代の後継ぎだ。 そこでは、奴隷の子孫にして母子家庭に育った痩せっぽちの黒人の女の子が大統領になる夢を持てる、 そして気づけ
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