発達し過ぎた科学に歯止めをかけ、物質と精神との調和のとれた暮らしやすい社会にしたい、そのために期待できるのが生命・環境倫理学などの応用倫理学だと思っていた私にとって、 本書はいささか刺激の強いものであった。 本書は、1970年頃から発達してきた生命・環境倫理学はほとんど社会に貢献しなかったし、その基軸自体が大きく揺らぎながら今日に至っており、 もはや学問としての存在意義はないのではないかという。 たとえば生命倫理学では、「自己決定権」の原理が大手を振ってまかり通ってきたが、援助交際を批判する上で無力であることが明らかとなり、 クローン人間や遺伝子改造についても押しとどめることができない。 また、環境倫理学で叫ばれた「人間中心主義への批判」は、文明生活の否定や動植物を優遇することに道を開くことになり、 なんとも現実とは遊離した議論に陥ってしまっているのだ。 医療技術はますます高度化し、環境破