8月10日、札幌ドーム周辺は、歩道も車道も人であふれ返っていた。試合開始3時間前。普段は車の少ない道が、すでに渋滞していた。乗用車でドームにたどり着くには、いつもの倍ほどの時間がかかった。小野伸二、北海道コンサドーレ札幌所属でのラストゲーム。クラブ担当7年目で経験したことのない、ワクワク感と寂寥(せきりょう)感の入り混じった空気が、試合前から会場には流れていた。 試合5日前、J2の琉球FCへ小野が完全移籍することが発表された。突然の報に、浦和レッズ戦のチケットの売り上げは、1日1500枚ペースで伸びていった。当日、詰めかけた観客数は8年ぶりに3万5000人を超えた。そのほとんどが注いだ視線の先にいたのは当然、小野だった。試合前の選手紹介の際、誰よりも大きな声援に包まれた。小野は両手を高々と挙げ、その声に応え、ラストピッチに立つ時を待った。大観衆も出番を信じ、小野の一挙手一投足を見守った。