武田砂鉄 今はノンフィクションとフィクションの境界も曖昧になっている気がします。それこそ麻布競馬場さんもご自身の小説について「どこまで本当?」と聞かれませんか? 麻布競馬場 そうですね。あらゆる作品の根底にリアリティがあるのは間違いないので、フィクションを書くうえでも取材は必要になります。フィルターを通して物語にしているから一概に言えないですけれど。 武田 取材対象のすべてを捉えることはできないですしね。話を聞かせてください、とマイクを向けた瞬間に、聞き手の意思があるわけだし。 麻布 そういう断片から、時代の空気が保存できる本にしたいなというのはありました。生まれたときから「失われたN年」が始まって、ずっと閉塞感のなかで生きてきたので。 武田 きている事象や空気を捉えていることもあるんじゃないかと。だから定義づけは時に乱暴です。 綿密な取材から気づかされる、 見えていなかった現実 麻布 …