茨城県の牛久市に、山岡家というラーメン屋があった。 地元から車で30分ほど。国道沿いの坂の上に鎮座するその店は、近隣市町村の若者なら誰でも知っている、地域のちょっとした名店だった。 もう20年ほど前だ。時間と車の免許しかなかった暇な大学生の夜。毎日、何をするわけでもなく仲間と集まった。夜中になると、誰かが山岡家にでも行こうと言い始める。深夜の、それも30分もかけて辿り着くラーメン屋は、もっと充実した時間の使い方があるのではないかと思いながらも、手段も目的も持てていなかった自分たちにとって、今日一日何をしたかという問いに対する逃げ道でもあったかもしれない。 それくらい、うまかった。駐車場に停めた瞬間、公害ではないかと思えるほどに鼻をつんざく豚骨の匂いは、二口目をすするまで鼻の奥から消えることなく、しかし三口目からは、黄金のスープのコクとして変換され、脳と胃袋に蓄積されていくのだ。 時間があっ