今年の海外ミステリベスト1の呼び声も高い、ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(早川書房)が話題になり始めたころ、その盛り上がりをかい潜るようにして、ある噂が私の耳に届いた――夏に文藝春秋からスゴイ海外ミステリが出るらしい、と。 今年はすでに、トニーノ・ブナキスタ『隣りのマフィア』、ジェイムズ・カルロス・ブレイク『荒ぶる血』、ロブ・ライアン『暁への疾走』など、年間ベストテン級の傑作海外ミステリを連発している出版社が、なお勝負作と謳う傑作とはいかなるものか? おもしろい物語を求める読者なら、大いに気になると思うが、先頃、ついにその作品――アダム・ファウアー『数学的ありえない』(上・下)が発売された。 神経失調を抱えた数学者ケイン。彼は自分でも気付いていない、ある「能力」を秘めているがゆえに、政府の秘密機関《科学技術研究所》から追われることとなる。権力を駆使した厳しい追跡のな