ヤーク・パンクセップ 感情の脳科学の導き手として、彼の不思議な名を聞いたのは、岩井克人先生との2時間の対話の最後であった。私は先生に問うた。 「消費者の頭の中に、物語として企業の顔を伝える場合、記憶をどのように構築していくべきでしょうか。ヒュームは『類似』『近接』『因果』、その3つが頭の中の観念同士の引力だと言っています(注1)。ヒュームの他に参照すべきものがあるでしょうか」 先生は、少し間を空けてから、こう仰った。 「わたしは最近脳科学ばかり読んでいるんです。前にやったことをまとめて書こうと思って、脳科学を勉強して、最終的に脳科学に還元できないことが経済学だということが言いたいのです」 先生の著作の中には、生物学に触れたものは多い。生物としてのヒトを社会的な人たらしめるものとして、遺伝子に還元されない「貨幣・法・言語」を考えてこられた(注2)。ただ、近年、本格的に脳科学を勉強されていると