晶太がいつものように、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ちょうどお客さんが帰るところだった。 このあいだスケアクロウのことで相談にのった、ゆなちゃんのお祖母さんが、若い女の人を連れている。ゆなちゃんと仲良しのつぐみちゃんのお母さんで、容子さんという人だった。 「いや、なんだかすっかり信用されたみたいでね。知り合いが心配事を抱えているから、話を聞いてあげてほしいと頼まれたんだよ」 お客さんを見送って戻ってきた師匠は、嬉しそうに、手土産でもらったお菓子を分けてくれる。 お菓子はおいしかったけれど、容子さんの相談事というのは、ずいぶん怖い話だった。 家の蔵から、夜な夜な、声が聞こえるというのだ。 低くこもった声が、繰り返し『ここから、出してくれ……』と、訴えてくるらしい。 その蔵があるのは久松さんという家で、容子さんの大叔父にあたるおじいさんが、長いあいだ独りで暮らしていた。 バイオリンが趣味という