ニューヨーク物見遊山・現代小説篇 (『GQ Japan』 1995 年秋あたり) 山形浩生 空港からのバスを下りると、そこはグランド・セントラル駅だった。ニューヨークを舞台にした三文小説は、よくそんな始まり方をする。われわれもここから見物を始めよう。ここはドス・パソス『マンハッタン乗換駅』だし、ウィリアム・バロウズ『映画ブレードランナー』のクライマックスの舞台でもある。建物としても味わい深いし(そうでもないか)、容積率移転の初期事例として都市開発史上でも有名。建物だけでなく、その上空の何もないあたりもしっかり愛でるのが通である。 背後にそびえる旧パンナム・ビルは、今や生保屋さんのメット・ライフビルだ。「パンナム・ビルが云々」というのは無数の小説や映画に登場する。教養ある人は、ここでアメリカの産業構造の変化とか、航空産業の規制緩和の是非とかに思いを駆せて欲しいな。 それはさておき、グランドセ