水村美苗さんが小説家として「日本語が亡びるとき」を書いたことは、すぐには多くの賛同が得られないかもしれないけれど、そのうちに「ああ、あれはこのことだったんだな」と思い返す日が来るのではないかな。なんというか、ゆっくり効く湿布薬のように。 そう思わせるのは、この部分を読んだのがきっかけだろうと思う。 数え切れないほどの文学の新人賞が生まれ、日本語に細かい網をはって、わずかでも書く才があれば拾い上げてくれるようになって久しい。すべての国民が文学の読み手でもあれば書き手でもあるという理想郷は、その理想郷を可能にするインターネット時代が到来する前、日本にはいち早く到来していたのであった。 だが、そのときすでに日本近代文学は「亡びる」道をひたすら辿りつつあった。 ここで日本近代文学が亡びる、と言っているのは日本文化が西洋で広く受け入れられ、主要な文学と認められていた土台が崩れるということを意味してい